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縦割りをこえて日本を元気に 第3回 防災・命の道/異種の道ネットワーク

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 土砂災害・地震・津波などの災害時の避難路として、公道と民道の異なる種類の道をつなげば、最小のコストで防災・命の道のネットワークをつくることができる。

 2012年に、岐阜県・高山市・下呂市・国道事務所・森林管理署・森林組合・建設業が集まり、「ひだ異種の道ネット検討会」が立ち上がった。ここは初回に述べた林建協働の発祥地である。

 岐阜県ではGIS基盤が整備されている。高山市ではGIS基盤を使い、まず山間部のどこに誰の道があるのかを調べ、異種の道の地図を作った。土砂くずれによる孤立を防ぐために、公道と民道をつなぐ回避ルートも検討している。下呂市では、地図にのっていない国有林の道と民有林の作業道がすでに市道につながっており、このルートを補強することで、災害時の迂回路をつくることを検討している。この道は、林業の木材搬出、観光や生活にも役立つ。

 民間企業も低コストで崩れにくい道の技術開発を行っている。鉄鋼スラグを砂利代わりに使った舗装、人力で運べる軽い鋼製の土留工などである。生コン車が入っていけない山道用に人力舗装にも力を入れている。

 南海トラフ地震の避難道としても、異種の道ネットワークが期待される。日本には海岸線に山が迫っている場所が多い。大津波が来る前に、山に逃げようとしても、どこに道があるか分からなければ逃げられない。高い場所に上れたとしても、その場所に物資が届くルートがなければ生き延びることができない。

 高知県の室戸岬、三重県・和歌山県の沿岸部に山が迫った急峻な地域で、「山中にどんな道があるのか」の異種の道の地図づくりを行い、それをもとに避難路をつくる検討が始まっている。尾根沿いに道をつなぐ提案もある。山の斜面のみかん畑の道や里道も使える。民間の道を使うには、災害時の協定や道路の管理上の問題があるが、災害時には地域住民の自助・共助を基本に避難策が検討されている。

 異種の道、官と民の道をつないで避難路を作ろう。そして要所要所に太陽光発電と蓄電池を備えた自立型の街灯(避難看板付)を建てておけば、夜間のよき誘導灯にもなる。

 しかし、道路は国交省、林道は林野庁、農道は農水省と分かれており、その縦割りをのりこえる挑戦が始まった。

執筆者プロフィール

慶應義塾大学特任教授・建設トップランナー倶楽部代表幹事 米田雅子

米田雅子
慶應義塾大学特任教授・建設トップランナー倶楽部代表幹事
建設トップランナー倶楽部 http://www.kentop.org/