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次代のコンストラクションカンパニー
第3回 データから見たこれから取るべき対策

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 建設業の労働生産性は、バブル崩壊から現在に至るまで足踏み状態が続いている。これは、建設投資額が1996年の約83兆円から2016年度は約52兆円と20年間で、約4割減少したものの、建設業就業者数はこの間約25%減となり、建設投資の減少率が就業者数の減少率を上回ってきたことが背景にある。

 一方、団塊の世代がすべて後期高齢者(75歳以上)に移行する2025年に向けて、生産年齢人口は558万人の減少が予測されている(国立社会保障・人口問題研究所)。2015年に331万人いた建設技能者は、「10年後に100万人前後減少する」と見られている。産業間で人材争奪戦が激化すれば、労働条件面で劣る建設業はいよいよ劣勢に立たされることが予想される。

 そこで、昨年より国土交通省は「i-Construction」の普及による生産性向上を推進している。公共工事の削減が底を打ち、業界全体で比較的経営状態が安定している今のうちに、「ICT(情報通信技術))を活用し、建設現場の生産性を2025年までに20%向上させる」ことを狙っている。

「i-Construction」は、次のような広がりを見せている。

1.AI(人工知能)による画像認識の活用
 例えば、維持管理における構造物の点検では、目視で損傷の有無や程度を判定する場面が多い。最近は、熟練の技術者が目視で判断した正常な路面と、不具合のある路面の画像をAIに学習させる取り組みが進んでいる。この他、シールド機の自動運転や山岳トンネルの切り羽の地質をAIで自動評価するシステムの開発などが行なわれている。

2.AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を使った施工品質の向上
 設計図書からパソコン用無償ソフトで作成した三次元モデルをVR化し、難易度の高い工事で作業動線や手順、安全策の事前検討で役立てたり、入場前教育に使うケースが増えている。AR、VR共に、コスト面を含めて導入のハードルは低下しており、用途開発の裾野も急拡大することが期待されている。

3.情報化施工の工事分野の拡大
 国土交通省が「i-Construction」の目玉として、品質向上や工期短縮等の効果を発揮するICT土工の普及を推進している。同省は2017年度以降、工事を受注した中小建設会社に機材を貸与したり、施工計画の立案を支援する。熟練オペレーターの不足や、現場の生産性向上に関する機運の高まりを受けて、情報化施工に関する技術開発は一層活発化している。

 わが国が1970年代に、オイルショックという供給制約を、世界最高のエネルギー効率を実現することで克服し、先進国の地位を確立したように、「人手不足」は日本経済に新たなイノベーションをもたらすことが期待される。建設業こそ、そのトップランナーなのである。

執筆者プロフィール

タナベ経営 コンサルティング戦略本部 中部本部部長 百井岳男

百井岳男
タナベ経営 コンサルティング戦略本部 中部本部部長
マーケティングを専門とし、経営診断・経営協力援助・集合教育と幅広く活動。マーケット調査のノウハウは屈指で、その情報分析能力は多くの企業から評価を得ている。自動車・産業機械・食品業界などの製造業を軸に、数多くの業種でコンサルティングを展開。