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どうなる? 未加入対策後の建設業界改革
第7回 「多面的」な対応の重要性

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 元請企業等が実施すべき下請企業への保険加入指導、または下請企業が自社や、関係する作業員の保険加入について検討する際のポイントとして、第5回では「適切な保険加入」把握の重要性を、第6回では「請負か雇用か」を始めとした、各作業員の就業実態の把握について触れました。

 最後のポイントとして挙げるのは、それらを踏まえた指導・検討は「多面的」であるべきということです。これは上記の第6回で触れた要点にも深く関わりがあります。

 例えば今回の未加入対策において、一人親方の増加が問題となっていますが、この一要因としては、事業主が社会保険料の削減を意図して、雇用関係にあった労働者を対象に1人親方等の個人事業主として形式的に請負契約を結ぶことが挙げられます。

 確かに請負としての一人親方であれば、いわゆる労使折半の社会保険加入義務はありませんので、保険加入の適正化が出来ていない状況の解決策となる面もあります。

 しかし気を付けねばならないのは、企業や個人は一つの法律やルールだけが適用されてるわけではないという大前提です。上記では社会保険上のリスク軽減の一端とはなりえますが、実はそれが別の面におけるリスクをむしろ増加させることがあります。

 例えば、一人親方は仕事の請負者ですので従業員とは異なり、仕事の請求書や請負契約書が適切でなければ、税務調査で指摘されうるという税法上のリスクが高まります。また、請負として不適切と判断されることは、同時に偽装請負として問題となるリスクもはらんでいるといえます。

 また、今回の未加入対策を受け改めて厳格化が進みつつある、「重層下請構造の是正」の観点からも、請負契約とすることのリスクは増してきており、またさらに別の面では、一定額以上の工事を請け負わせるには建設業許可が必要になるという、建設業法上のリスクも高まるという見方もできます。

 つまり、一面的な対応では単にリスクの場所を移しているに過ぎず、必ずしもその会社や個人としての問題解決には繋がらないということです。

 激しい変化の時代を迎えている建設業界において、その場しのぎの対応ではリスクは増すばかりといえます。一面的な対応に終始せず、「多面的」な対応を心掛けることにより、その時、その会社・個人にとってベストの判断を取ることが出来るのです。

執筆者プロフィール

特定社会保険労務士 社会保険労務士法人エール(横浜市) 加藤大輔

加藤大輔
特定社会保険労務士 社会保険労務士法人エール(横浜市)
社会保険労務士法人エール(横浜市)所属。特定社会保険労務士。建設企業向けのコンサルティングを幅広く手掛けてきた社会保険未加入問題の第一人者。関連する執筆やセミナー講師など多数。