ビジネスと人権 働く人を大切にする業界に
2022/9/26
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政府は9月13日、企業による人権侵害をなくすため、経営層も関与した企業方針の策定や、業務内容に関する調査を求めるガイドラインを決めた。法的拘束力はないが、対象は国内の全ての企業に及ぶ。発注者である民間企業や元請けの建設会社がガイドラインを順守しようとすれば、工事の受注者や下請けにも人権を尊重しているか否かが問われるようになる。建設業界の誰もが関わる課題と捉えたい。
政府のガイドライン策定に先んじて、スーパーゼネコンをはじめ多数の大手建設企業は人権尊重に関する方針作成や調査を自主的に実施している。そこで主要な人権リスクの一つとされるのが、長時間労働や賃金不払いなど労働環境を巡る問題だ。
わけても、技能実習生をはじめとした外国人材の受け入れ体制には、国際的にも厳しい目が向けられている。労働基準監督署の指導で、技能実習生に関係する法令違反が最も多い業種は建設業だ。また、全失踪者数の約4割を建設業が占めており、改善は急務と言える。
政府のガイドラインは、企業の取引関係全体を対象としている。建設業界は、重層的な下請け構造と多種多様な資機材のサプライヤーで構成されており、個社での取り組みには限界がある。一部の大手建設企業だけにとどまらず、業界全体で取り組む必要がある。
民間発注者も動き出した。三菱地所は、技能実習生の人権尊重で配慮すべき事項をまとめ、2020年4月から発注先に協力企業も含めて指導するよう見積もり要項書の中で申し入れている。
先行例を見ると、清水建設は昨年、技能実習生を受け入れている主要な協力会社に実態把握に向けたアンケートを実施。回答はおおむね適正だったものの、一部には▽同等の技能がある日本人との賃金差▽監理費を技能実習生に負担させる―といった事例が見られた。事業主への聞き取りや書類チェック、技能実習生本人へのインタビューを通じて改善に取り組んでいるという。
技能実習制度そのものを見直す動きも出てきた。7月には古川禎久法相(当時)が会見で、国際貢献という制度の目的と、人手不足対応という実態の「かい離」を指摘。「人権が尊重される制度」への見直しを表明した。
技能実習と異なり、一定の専門性・技能を有する外国人材を即戦力の労働者として明確に位置付ける特定技能の受け入れ人数も徐々に拡大している。こうした制度を活用し、活躍する人を表彰する外国人建設就労者表彰では、多くの優れた受け入れ事例が集まっている。良好な取り組みの水平展開も重要だ。
日本の人口は長期的に減少が見込まれており、慢性的な人手不足にあえぐ建設業にとって外国人材の重要性は大きい。日本の建設現場の労働環境にネガティブなイメージが根付いてしまっては、将来的に「働きたい国、業界」と見られなくなる恐れもある。
外国人材を取り巻く長時間労働や低賃金といった課題を放置することは、建設業で働く全ての人の労働力に対するダンピングにもつながりかねない。改善の恩恵は、外国人材だけでなく建設現場で働く全ての人に及ぶはずだ。政府のガイドライン決定を契機に、建設業界を挙げて働く人を大切にする機運を高めたい。
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