建滴 コロナ後の建設業
2023/3/6
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長い混乱の時期が終わろうとしている。政府は新型コロナウイルスの感染症法上の分類を、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行する方針を決めた。再流行を繰り返した記憶はまだ生々しいが、社会は前に進みつつある。エッセンシャルワークとして存在感を高めてきた建設業も、今後は再び活況を取り戻した他産業と人材獲得競争にさらされる。経済活動の再開に伴う資材価格の歴史的な上昇をはじめ、「コロナ後」の経営課題が顕在化している。働き方改革や脱どんぶり勘定といった従来からの宿題に、改めて向かい合わなくてはならない。
コロナ禍という未曽有の非常時にあって、建設業は比較的、事業活動を継続できた産業とされる。有効求人数は20年にいったん落ち込んだものの、他産業に先駆けて21年から増加基調に反転し、雇用の受け皿となった。しかし、22年には宿泊・飲食など大きな打撃を受けていた産業の回復に伴い人材市場が枯渇し、建設業の有効求人倍率が3年ぶりに上昇。人手不足はいまや全産業中で最悪の水準だ。
さらに、24年4月からは建設業にも残業時間の罰則付き上限規制が適用される。全国建設業協会の最新の調査では「おおむね4週8休」を達成できた現場は2割強。働き方改革に一定の進展が見られるとはいえ、人手不足が長時間労働に拍車をかけることへの不安はぬぐえない。
もう一つ、気に掛かるのが中小建設業の資金繰りだ。政府はコロナ禍の拡大直後から信用不安による連鎖的な倒産を防ぐため、金融機関の無利子・無担保融資を推進してきており、中小零細を中心に多くの建設業も利用した。その返済が今夏、ピークを迎える。
そこに、出口の見えない物価高騰が追い打ちをかける。経済調査会の建設資材価格指数(15年度平均を100とした指数)は1月に148・2に達した。着工から入金までタイムラグがあるという昔ながらの課題が、体力の乏しい中小建設業を追い詰めている。
帝国データバンクの集計で、20年の建設業の倒産件数は14年ぶりに前年を上回った。人手不足、コロナ融資後の資金繰り悪化、物価高を理由とするものが多かったという。コロナ禍にあって一時的に棚上げされてきた建設業の課題が、今になって重みを増し、再び迫ってきた感さえある。
工期末が年度末に集中しがちなことによる現場の長時間労働や、重層的な下請け構造の中で進まないコスト転嫁など、課題の多くは建設業の産業構造に根差したものだ。難題だが、諦めるわけにはいかない。
こうした現状に対し、国土交通省は「持続可能な建設業」の実現を掲げて有識者会議を設置。民間を含めた発注者に適正な工期設定を促したり、元請けから下請けへ適切に技能者の賃金を行き渡らせるための環境整備を話し合っている。この議論を“絵に描いた餅”としないためには、建設業が発注者や元請けと契約条件を巡って主体的に交渉するとともに、交渉力の源泉となる競争性を高める姿勢が欠かせない。
建設業界は、昔ながらの経営手法と働き方が温存されていると見られやすい。しかし、ロックダウンに直面したときは、遠隔臨場を速やかに取り入れ、いち早く「新しい働き方」に順応してみせた。コロナ後の社会情勢を見据え、再びその順応力を発揮するときだ。
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