建滴 G7交通大臣会合 「移動の自由」の価値発信
2023/6/26
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6月18日に閉幕したG7三重・伊勢志摩交通大臣会合。取材した中で印象に残ったのは、議長を務めた斉藤鉄夫国土交通大臣が、成果の筆頭に「移動の自由」の明文化を挙げたことだ。大臣会合終了後の会見で「移動の自由、交通の自由は、最も根幹的な権利の一つ」と述べ、G7がこれを共有する意義を強調した。
確かに、人を土地に縛りつける封建主義から、民主主義・自由主義に移っていく過程で、「移動の自由」は大きな役割を果たした。G7は、日本、アメリカ、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアの7カ国とEU(欧州連合)で構成している。外務省の定義に従えば、自由・民主主義・人権などを基本的価値として共有するグループだ。新型コロナウイルス感染症によるロックダウンの記憶も新しい今、そのG7が「移動の自由」を再認識する意義は大きい。
さらに、今回の会合には、戦時下で多くの人の移動がままならないウクライナが招待され、復興担当の副首相が出席している。斉藤大臣の言葉は、ベルリンの壁が崩壊した際の象徴的なシーンを想起させた。
もう一つ、今回の会合を特徴づけたのが、バリアフリーについて取り扱い、高齢者や障がい者などが受ける心のバリアの問題にまで言及したことだ。斉藤大臣が「これまで話し合われてなかったことに驚いた」と会見で述懐した通り、交通機関や施設のバリアフリー化がG7でテーマとなったのは、今回が初めて。さらにそこで、「周囲の態度やコミュニケーションといった目に見えない障壁」についてまで議論を深め、「無形の視点への対応を含め、バリアフリーな交通を推進する」との文言を共同宣言に盛り込んだ。
日本は、この心の問題を「バリアフリーマインドセット」と訳して、各国に説明したという。ニクソン・ショックや石油危機などを踏まえた政策協調を発足の契機とし、経済をベースとした議論が多いG7において、心の問題が取り上げられることは珍しい。まさに「高齢化の先進国」だからこそできた提案だ。
また、日本は今回の会合を機に、ウクライナに対して「東日本大震災からの復興で蓄積した知見による支援」も提案している。災害や高齢化といったネガティブな事象をポジティブな提案に転換し、大臣会合の議論をリードできたことは、今回の大きな成果と言えるだろう。
今回の開催地となった伊勢・志摩には、神社本庁の本宗とされる伊勢神宮がある。会合の合間、各国の大臣も神宮を訪問した。神宮を詣でる「お伊勢参り」は、封建主義まっただ中の室町〜江戸時代において、日本の庶民が自由に旅をする貴重な機会。道中、さまざまな人のボランティアの「おかげ」で参宮できたことから「お蔭参り」とも呼ばれ、旅費を共助する伊勢講という制度もあった。これらのシステムに支えられたお伊勢参りが、当時の情報流通を促進し、近代的な民族意識の醸成につながったといわれる。当時、流行や文化の発信地だった伊勢神宮。その地から再び、新たな価値観と思いやりが、世界に広がることを期待したい。
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