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総価請負からの転換@ 物価高騰に直面

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 現代は不安の時代だ。コロナ禍や、出口の見えない物価高騰は社会経済を大きく揺るがした。しかし日本の建設業界は、高度成長期に最適化した体制からいまだに転換できていないのではないか―。こう問いかける志手一哉芝浦工業大学教授に、ゼネコンが取るべき道筋を聞いた。

 ―多くのゼネコンが、とりわけ民間建築工事で資機材の価格高騰を転嫁できずにいる。
 「日本の建設業はこれまでほぼ総価請負しか経験してこなかった。物価が大きく変動せず、また経済が持続的に成長している間はそれで問題なかった。だが、現在のように先行きが分からない時代に、総価請負の一本槍で本当にいいのか。それが問われるようになってきている」
 「基本的に、発注者は早期に予算を確定し、完成までゼネコン任せにできる総価請負を希望する。これはどこの国でも同じ傾向だ。一方、ゼネコンは一般的にリスクを嫌って、かかったコストを実費精算する『コストプラスフィー』などの契約方式を選ぶが、日本ではそうならなかった。経済成長下ではそれが利益を出す最適解だったのかもしれない。しかし、バブル経済が終わり、市場が縮小を続けたのに、ゼネコン自身が総価請負を選び続けてきた」
 ―なぜ総価請負から抜け出せないのか。
 「設計が固まっていないところをゼネコンの生産設計部門が詰めて、VE提案などで利益を確保してきた歴史がある。それが現場や所長の評価にもなっていた。だが、物価上昇に終わりが見えず、人手不足の劇的な解消も難しい中で、単純なコストダウンはもう限界なのではないか」
 「発注者側に総価請負をやめる理由はない。ゼネコン側から提案しないと商習慣は変わらない。どうせ発注者に受け入れられはしないと諦めているのかもしれないが」
 ―契約の在り方を変えるため、ゼネコンはどうすればいいのか。
 「内部の体制を変えるよりも、意識改革が重要ではないか。総価請負はうまくいけば利益が出て、失敗すれば赤字になる。一方、コストプラスフィーでは、ゼネコンが受け取る報酬(フィー)はコストに一定の率を乗じたものとなる。利益に対する考え方を変える必要がある」
「たくさん利益を出すことだけが経営者の評価だとは、必ずしもされなくなる。良質な建物ストックを残すこと、優れた建築作品を完成させることなど、自社が存続する目的をどこに置くかが改めて問われる」

しで・かずや 1992年豊田工業高等専門学校卒業、竹中工務店入社。施工管理、生産設計、研究開発に従事した後、2014年芝浦工業大学工学部准教授。17年から現職。