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総価請負からの転換B 健全な勝負の土俵を

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 発注者の意向をくみ取り、形にする中で利益を得る総価請負からの転換。それは、ゼネコンが一方的に責任を負うような発注者との関係を変えることになる。それでもなお “選ばれるゼネコン”となるには、何を競争力の源泉とすべきなのか。志手一哉芝浦工業大学教授は、「本当の意味でリスクを取ること」の重要性を強調する。

 ―コストプラスフィー契約が当たり前になったとき、ゼネコンは何を売りにすべきか。
 「報酬(フィー)の率で勝負するのは避けた方がいい。むしろ品質管理やコストダウン、安全といった健全な勝負の土俵を作るべきだ。きちんとした提案と、それを裏付ける技術力が求められる」
 「具体性のある提案をする上でも、設計の確定度を高めることは重要だ。どのような技術を使うかを明確にするには、ECIやデザインビルドなどで実施設計からゼネコンが入ることが望ましい。こうした場面での対応力が、ゼネコンの一つの評価軸になるかもしれない」
 ―発注者とゼネコン、設計者の関係も変わりそうだ。
 「1980年代に欧米の研究者が、日本の建設産業の構造に着目して『パートナリング』という概念を打ち出した。設計者だけでは不確定要素が多いところを、ゼネコンの生産設計で詰めるという仕組みだ。バブル期はそうした役割も総価請負の一部と見なされていたが、コストプラスフィーではゼネコンが受け取るフィーを明確にした上で担うことになる」
 「海外の例を挙げると、例えば英国のパートナリングでは、専門工事会社を設計者が推薦して、発注者が直接契約を結ぶパターンがある。エレベーターやカーテンウオール、設備などの設計を専門工事会社が分担し、詳細を詰めていく。ゼネコンによるネゴや相見積もりが不要になり、手戻りもなくなる。確定できる要素はどんどん固めていくという発想だ。BIMが普及してきている現在、こうした関係者間のコラボレーションはむしろ容易になってきている」
 ―コストプラスフィー契約を選ぶことで、建設プロジェクトのリスクはなくなるのか。
 「コストプラスフィーについて言えば、未経験のゼネコンには不安もあると思う。また、発注者に受け入れられないという感覚も根強いのではないか。しかし、建設プロジェクトを巡る発注者と受注者の立場は本来、対等なはずだ。物価高騰の局面で総価請負が厳しいのであれば、それはきちんとゼネコン側から伝えなくてはならない」
 「『脱請負』とは、ある意味でリスクを取ることでもある。確かに、総価請負でも工事の完成までのリスクをまとめて負うことにはなるが、それは発注者が構想するプロジェクトの中の限定的なリスクと言える。例えばPFIやコンセッション方式では、自らがプロジェクトに主体的に関わり、長期間にわたるリスクを背負う。勝負する事業領域を決めてそこに人材投資をするという、よりシビアな経営判断をゼネコンは問われるようになる」