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建設経済の最新分析Cインボイスの影響 一人親方の離職が進む

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 建設労働に関する制度改正が建設業にもたらす変化について、全国建設労働組合総連合との共同で、免税事業者の一人親方を対象としたアンケート調査(有効回答は1977件)を行い、さらにヒアリング調査を実施した。本稿では、今年10月に導入される「インボイス制度」が建設業界にもたらす変化の一部について示す。
本制度の導入により、免税事業者の多い一人親方が課税事業者と取引する場合の税負担の増加が懸念されている。
アンケート調査によると、多くの一人親方がインボイス制度を認識し、インボイス発行の必要性を認識している一方、取引先からは本制度導入後の対応についての通知をあまり受けていないことが分かった。一人親方全体の1〜2割を占める70歳以上の高齢の一人親方の約2割が、本制度導入をきっかけとして事業をやめることを検討していた=グラフ参照。建設企業を対象に実施した別のアンケート調査でも、一人親方との取引の多い2次以下の下請け企業が、一人親方の負担増となる対応を予定している割合が多かった。
ヒアリング調査では、一人親方は簡易課税制度を利用する課税事業者との取引の場合は負担が増えないことに言及する声があった。経過措置や特例措置とともに、簡易課税制度が事業者の負担増を軽減し、高齢の一人親方の離職を緩やかにすることも期待される。しかし、経過措置などは範囲と期間が限定的であることから、離職の抑止にまではつながらないと考えられる。
一人親方は今後もさまざまな制度への対応によりさらに負担が増える可能性があり、また高齢化がさらに進むことで、中期的には離職は確実に進んでいくものと思われる。慢性的な人手不足の状況下、本制度導入を契機とする技能労働者の離職は少しでも抑制していきたいところである。特に、貴重な若年層の負担が増加しないような施策をいかに講じ、業界に留め置くことができるかが重要となってくるだろう。
(建設経済研究所 研究員  櫻井 将司)