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未来へトライ!!スポーツ施設のこれからA稼げるスポーツ施設とは 〜その@ 何にお金をかけるべきか〜

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 第一回の寄稿ではスポーツ施設をつくる際の“目的”について述べた。我が国ではオリンピックや国体の開催が建設の目的となることが多いが、本来スポーツ施設の目的はスポーツを“観るため”もしくは“するため”のいずれしかない。

 観るため=興行の開催を目的とした施設とするならば、興行主(テナント)から選ばれる、すなわち稼げる施設にする必要があるわけだが、一般の商業施設では当たり前のこの発想が、特に公共のスポーツ施設ではないがしろにされていることが多い。施設を利用する興行主の収入はチケットや場内広告、グッズや飲食などの売上によるものなので、それらの収入が最大化される設備や機器があらかじめ備わっているかが、興行主から選ばれる施設になるためには重要となる。

 選手のプレーが最も観やすい位置から座り心地の良いシートで食事やお酒をみんなで楽しみながら観戦できるボックスシートが備わっていれば、一人あたりのチケット単価は1万円を超えるかもしれない。試合中に複数社のコマーシャルが放映でき、選手入場時には迫力ある映像で演出ができる大型ビジョンがあれば、広告収入は増加し来場者の満足度も向上するだろう。コンサート開催時には良質な音を奏でる音響機器や快適に過ごせる楽屋があれば、アーティストが使いたくなる施設になるはずだ。場内に広大なグッズ売り場があり、数多くのグルメが楽しめる飲食店があれば、来場者の財布の紐は緩むに違いない。

 これらの稼げる要素は、既に出来上がっている施設に後づけで取り付けたり、興行開催時のみに設置する場合には膨大なコストがかかるか、物理的に不可能であることがほとんどだ。要するに建設時にはじめから設計をしなければ実現できないものであり、計画当初からそのスポーツ施設の目的に照らして検討しなければならないものなのである。

 逆に言えばそれらの設備や機器がなければ、その施設で観るスポーツの試合を開催しても興行主は稼ぐことができないのだ。興行主は稼げなければ施設利用料を支払えない、すなわち興行主から選ばれない施設となり稼働率は下がり、公共施設であれば維持費において税金負担が増える結果となる。施設建設時におけるそれら稼げる要素への費用拠出は投資として考えるべきものなのである。

 しかしながら、現状の公共スポーツ施設においては、建物のデザインに多額の費用をかけたり、用途の不明な諸室がつくられたり、大型イベントの開催にしか必要のない設備を常設としてしまうなど、そもそもそのスポーツ施設の目的が不明瞭であるがゆえに、稼がない要素にお金が使われることが多い。高価な座席や映像装置など先に述べた稼ぐ要素とは決して贅沢品ではなく、興行主が稼げるようにすることでそれなりの施設利用料を設定でき、結果として税金負担を減らすために必要な投資だと考えるべきであろう。

※写真は沖縄アリーナのVIP席からみた大型ビジョン。収益を高める設備への投資が稼げる施設の鍵となる(筆者撮影)

執筆者プロフィール

静岡ブルーレヴズ代表取締役社長 山谷拓志

山谷拓志
静岡ブルーレヴズ代表取締役社長
慶応義塾大学を卒業後、リクルートを経て2007年に国内のプロバスケットボールチームである宇都宮ブレックスを創設。3年目で田臥勇太選手を擁し日本一となり、3期連続で黒字達成。14年茨城ロボッツ社長就任。経営を再建し21年B1リーグ昇格。21年より静岡ブルーレヴズ代表取締役社長。