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「未来へトライ!!スポーツ施設のこれから」Cスポーツ施設のネーミングライツのあるべき姿とは

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 味の素スタジアム、日産スタジアム、京セラドーム大阪など、日本でも近年スポーツ施設に限らず公共施設に企業名や商品・ブランド名を冠する「ネーミングライツ」の事例が数多く見られるようになった。いわゆる命名権といわれるもので、既に出来上がっている施設の正式名称を変更し、周辺の案内看板を差し替え、メディアなどに周知するといった権利を販売し、小規模施設であれば年間数百万〜数千万円、大規模なスタジアムでは年間1億〜2億円で長くても5年程度の契約を結び収入を得て、看板製作などかかる費用を差し引いた金額が収入となり施設のランニングコストに充てる、というのが我が国での一般的なネーミングライツのスキームである。
 しかしながら、海外でのネーミングライツの事例はそもそもの発想やスケールが全く異なる。まず、スポーツ施設の構想・設計段階から命名権を購入する企業を募集する。施設ができてもいないのに売れるわけがないと思われるかもしれないが、建設の前だからこそ命名権を購入する企業が、単に施設に冠名称をつけ看板を差し替えるだけのメリットだけではなく、例えば施設そのものを冠名称が体現するデザインとしたり、その企業がマーケティングを実施する上で必要な設備、例えば商品の展示スペースや顧客を接待するための部屋などを要求することができるのである。要するに拠出するコストに対して、名称の周知のみならずマーケティング的にペイする仕様を求めることができるのである。なので、高額かつ長期に渡る契約が可能となり、イニシャルコストをも補うことができるようになる。
 米国アトランタに「メルセデス・ベンツ スタジアム」という自動車メーカーが命名権を取得したスタジアムがある。建物はブランドロゴマークを象徴するようなデザインに仕立てられ、場内至る所に車が設置されながら巨大なショールームになっており、また商品が富裕層向けであることから顧客が優先的に使用できるVIPラウンジなどが常設されている。このようなことが施設をつくる前に構想段階からセールスされるため、27年間で468億円(年17・3億円)という巨額の契約が可能となる。
 かつてイチロー選手が活躍した旧セーフコフィールドは、現在Tモバイルパークとして携帯キャリアが命名権を取得している。日本のように後づけ命名権の形式ではあるが、その企業のイメージカラーの照明が灯り、その携帯ユーザーのみが見学できるブルペンがあり、アプリではお得なクーポンが配布され、球場のコンコースでは販売促進ブースが至るところに設置されている。その企業にとって十分ペイする仕掛けを提供することで、後づけであっても25年間126億円(年約5億円)の契約が実現している。
 ネーミングライツで稼ぐ=税金負担を減らすためには、新設のスポーツ施設においては完成してから企業に募集をかけても時すでに遅し、なのである。

※写真はメルセデス・ベンツが命名権を取得したスタジアムには常に至るところに車が展示され、ショールームの機能を果たしている(提供/メルセデス・ベンツスタジアム)_1

執筆者プロフィール

静岡ブルーレヴズ代表取締役社長 山谷拓志

山谷拓志
静岡ブルーレヴズ代表取締役社長
慶応義塾大学を卒業後、リクルートを経て2007年に国内のプロバスケットボールチームである宇都宮ブレックスを創設。3年目で田臥勇太選手を擁し日本一となり、3期連続で黒字達成。14年茨城ロボッツ社長就任。経営を再建し21年B1リーグ昇格。21年より静岡ブルーレヴズ代表取締役社長。