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「未来へトライ!!スポーツ施設のこれから」D(最終回)スポーツ施設を核としたまちづくり

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 これまでの連載でお伝えしたような、“みる”スポーツを中心とした多目的化し稼働率を高めたスタジアムやアリーナが完成すれば、毎週のように数千から数万の人達が訪れる場所になることが想定される。だとすれば施設までの交通網や駐車場の整備が必須となり、試合やイベント前後に飲食や買い物を楽しめる場所があれば回遊性が高まるであろう。そのようなエリアの周辺には住宅やオフィスもできるだろうし、そうなれば平日にも人が賑わう街になる―。
 従来のような“する”スポーツのための施設であれば単に公園の中につくればよいだけであったが、人が集まり賑わいを生み出す“みる”スポーツの施設においては、その施設を中心としたまちづくりという発想が求められる。
 今年北広島市にオープンした北海道ボールパークFビレッジではスタジアムを中心に分譲マンションや商業施設やアウトドア施設が併設され、今後周辺にはホテルや新駅を建設する計画があるという。来年長崎市にオープンする長崎スタジアムシティでも同様にスタジアムとアリーナを中心としてホテルやショッピングモールやオフィスビルが併設されるという。
 いずれも民設民営の施設であり、北海道日本ハムファイターズやV・ファーレン長崎(サッカー)と長崎ヴェルカ(バスケットボール)のオーナー企業であるジャパネットグループといったプロスポーツチームが、もはやデベロッパーのような立ち位置で不動産開発事業を推進しているのが特徴的だ。プロスポーツチームは夢や感動を提供するエンターテインメントコンテンツという価値のみならず、その集客力やブランドイメージをもって施設周辺のまちづくりをも担っていくという考え方が世界では主流になりつつある。もちろん民間だけではなく、行政にも公共交通や道路の整備といった役割が求められる。単にスタジアムをつくるということではなく、官民一体となってスポーツ施設を核としてどのようなまちをつくるのかという発想が求められるのだ。
 この連載寄稿ではこれからの時代に求められるスポーツ施設の考え方について述べさせていただいた。みるスポーツのためという明確な目的からぶれることなく、観戦体験が高まり顧客単価を高める設備に投資し、映像や音響装置といった興行主が求める装置を当初から整え、稼働率を高めるべくスポーツのみならず音楽イベントなどを想定した多目的化を標榜し、施設の構想や設計の段階から広告主の要望を加味した高額なネーミングライツ契約によりコストをまかない、官民が連携しその施設を核としたまちづくりという発想で地域に大きな経済効果をもたらしていく。
 スポーツというコンテンツの価値は我が国ではまだまだ過小評価されていると感じる。地域におけるプロスポーツというかけがえのない宝物を活かし、それにふさわしいあるべきスポーツ施設をもって、まちを地域を元気にしていきたい。

執筆者プロフィール

静岡ブルーレヴズ代表取締役社長 山谷拓志

山谷拓志
静岡ブルーレヴズ代表取締役社長
慶応義塾大学を卒業後、リクルートを経て2007年に国内のプロバスケットボールチームである宇都宮ブレックスを創設。3年目で田臥勇太選手を擁し日本一となり、3期連続で黒字達成。14年茨城ロボッツ社長就任。経営を再建し21年B1リーグ昇格。21年より静岡ブルーレヴズ代表取締役社長。