建通新聞社

建設ニュース、入札情報の建通新聞。[建設専門紙]

「攻めのDX」・「守りのDX」の格差。 【第1回】建設業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の進化:現状と課題

いいね ツイート
0

 「建設業界における人事労務部門のDXは道半ば」―。クラウド型人事労務システム「ジンジャー」を提供しているjinjer(東京都新宿区)の松葉治朗執行役員CPO(最高プロダクト責任者)はそう語る。
 建設DXに関する実態調査(※1)によると、建設DXに積極的な部門は、施工管理部門、設計業務部門であった。また、建設DXに期待する効果として、「コスト管理」、「プロジェクトの可視化」、「設計施工情報の管理」が上位の意見として挙げられた。
 このことから、現場の業務効率化が早期で見込める部門を中心に、「攻めのDX」に関する取り組みへの期待値・関心が業界内では高いようだ。
(※1)BuildApp News「【建設DXの独自調査@】デジタル化に積極的な部門ほどBIMを利用」
https://news.build-app.jp/article/7323/

 一方で、企業運営には欠かせない「人事労務」分野の、いわゆる「守りのDX」に関してはどうだろうか。
 昨今注目される動きとして、2024年4月1日から始まった「建設業における時間外労働の上限規制」がある。これにより、企業はこれまで以上に徹底した勤怠管理が求められるようになる。この点について、当社で独自の調査(※2)を行ったところ、23年9月時点では、調査対象者の約50%以上が今回の法改正について詳しく把握していない現状があった。残業時間の管理についても、システム活用が進んでおらず、日報や紙のタイムカードによるアナログ管理が中心で、正確な勤怠管理ができずに不安を感じている声が多くあった。
(※2)jinjer「建設業における勤怠管理の実態調査」
https://hcm-jinjer.com/blog/dx/110522-2/

 各社の調査結果から、現場のIT化が見込める「攻めのDX」に関心はあるものの、法令順守に早期対応が見込める「守りのDX」に対する関心が、業界内では依然として希薄なことが分かる。どちらも重要な観点ではあるものの、「攻めのDX」と「守りのDX」に対する意識の差分はどのような点に生じるのだろうか。

 私の考えとして、人手不足による現場業務のひっ迫が起因となり、かろうじて人力で業務を回せてしまう人事労務分野まで手が回ってない企業も多いのではないかと感じている。実際、顧客の話を聞いていても、目の前にある業務が早期に改善される分野の投資が優先され、効果が見えにくい人事労務分野の投資はどうしても後回しになってしまっている現状がある。
 また、施工管理、設計業務部門では、他部門と比較した際に、資料や図面のペーパーレス化が進むなど、デジタル技術を活用した業務プロセス変革が行われている。一方、人事労務部門では、紙の日報やタイムカードを使ったアナログな集計・管理がまだまだ主流だ。
 24年問題による影響が差し迫っている中、マンパワーで人事労務管理をしていくことへの警鐘を鳴らしたい。

執筆者プロフィール

jinjer且キ行役員CPO(最高プロダクト責任者) 松葉治朗(まつば・じろう)

松葉治朗(まつば・じろう)
jinjer且キ行役員CPO(最高プロダクト責任者)
人材系ベンチャー企業を経て、ネオキャリアに転職しクラウド型人事労務サービス「ジンジャー」の立ち上げに携わる。その後、同サービスのCPO(最高製品責任者)に就任し、HRテクノロジーをけん引するプロダクトへと成長に導く。また、人事データ活用に関するセミナーへ登壇するなどHRテクノロジーの啓発活動にも積極的に取り組んでいる。