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官民連携で進むインフラ維持管理 愛知県・豊田市

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 「クルマのまち」として知られる愛知県豊田市。全国有数の紅葉の名所「香嵐渓」をはじめ豊かな自然と工業が同居するこの中核市が2018年に県内で初めて導入したのが「下水道管路施設の包括的維持管理委託」だ。下水道施設課の新岩康正課長はその背景を「自治体・民間ともに技術者が減るという課題は同じ。ならば、民間に任せるべきは任せ、行政は判断すべき事項に注力していくべき」と話す。「主目的はコスト削減ではなく、限られた人的資源を公民で分担すること」との考えだ。
 豊田市の市域は約918平方`と全国の中核市の中でも4番目に広い。一方で、人口は16位の約42万人。下水道管路ストックは総延長1664`の管路や、5万1534カ所の人孔がある。人口やストックが同水準の千葉県柏市(市域約114平方`)と比べ、市域は8倍に上る。
 その要因でもある平成の市町村合併により、下水関連では、長野県境に近い、稲武・野入2地区の農業集落排水施設が維持施設に加わった。同地区までは市役所から片道1時間超。包括委託の前は、夕方からトラブルに対応した職員が「安全確保のため、一晩中現地に立っていた」という事態もあったという。
 管路の維持管理を担う、下水道施設課は総勢18人。技術者は13人だが、20代は1人、30代は3人、残りは全員40代以上だ。市の土木系技術者は200人超いるというが、下水処理施設は特殊な技術も多く、電気・機械・生物など幅広い分野の技術者を必要とする。
 管路施設の維持管理はこれまで、清掃、草刈り、閉塞(へいそく)予防調査といった業務委託の他、年間100件以上の修繕の入札・契約手続きを行っていた。包括委託の導入で、事務負担は大幅に軽減。施設の更新・長寿命化検討など本来業務に注力できる環境が整った。
 自治体にとっては、迅速な対応も可能となり、予防保全による不具合の早期発見は、市民サービスの向上、安全・安心の確保につながっているとみる。また、大規模災害時などに事業者の協力が得られるのも大きなメリットだ。
 では、事業者側のメリットは何か。豊田下水道管理サービスの伊藤貴正統括責任者は「仕事が平準化されるため、それに伴い人材確保の見通しがつきやすい」ことを挙げ、続けて「調査、清掃といったフィールドが各所にあり、技術力向上につながる」と話す。さらに「年間の計画を立案しやすいため、ワーク・ライフ・バランスにもつながる」という。
 新岩課長は、包括的維持管理の導入に当たり重要なのは「業務そのものが減る訳ではないのでコスト削減のイメージを持たないこと」。「増加する業務に対し、公と民が役割分担して臨む手法だと考えるべき」だという。
(中部支社)