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「宅建」という資格から見えてくるもの 第5回 常識と法律@

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 以前にもお話しました通り、私は大学で法律を専攻したため、法律の条文とのつきあいは、かれこれ25年ほどになります。「法律」はご承知の通り、国権の最高機関である国会で、われわれ国民の代表者である国会議員によって議論され、制定・公布されます。
 従って、「法律」は本来、われわれ国民の持っている価値観や常識と合致している、あるいはその延長線上にあるべきものだと考えます。確かに、「法律」の条文そのものは堅苦しく、難解な印象がありますが、その底流にあるものは、われわれ国民の生活を守るべきものであるはずです。
 しかし、「法律」を勉強していますと、われわれの(と、いうか、少なくとも私の)常識と食い違い、思わず「?」となってしまう条文にお目にかかることがあります。
 例えば、このような例があります。
 民法の「制限行為能力者制度」で、制限行為能力者である未成年者が、親から相続した3,000万円の土地の売買契約を(売主として)締結したとします。
 未成年者はまだ、「土地を所有する」ということの価値がわからないでしょうから、それよりも遊ぶための金欲しさに、その土地を売却したわけです。
 そして、未成年者には3,000万円という大金が入ってきます。早速、その未成年者は、ゲームセンターなどで湯水のように200万円ほど浪費してしまいました。友達におごってやったりすると200万円などという金額がなくなるのはあっという間です。
 しばらくして、土地の売却に気付いた親戚の怖いおじさんからこっぴどく叱られ、とうとう未成年者は先の売買契約を、「自らの制限行為能力を理由に」取り消すことにしました(取消権の行使)。
 すると、契約の両当事者は互いに、相手方から受け取ったものを返還しなければなりませんが、未成年者の手元には既に2,800万円しか残っていません。
 さて、未成年者はどうしなければならないでしょうか?
 私の常識では、いくら未成年者といえ、相手方が土地を返還してきた以上、こちら側も3,000万円、耳をそろえて返還しなければならないはずだと思いますが、何と、民法の規定はこれとは異なるのです。
 民法121条但書は、「制限行為能力者は現に利益を受けている限度で返還すればよい」と規定し、現在手元にある2,800万円だけを返せばよいという規定になっています(!)。すなわち、浪費した200万円は返さなくてもいいわけです。
 なぜ、このような規定になっているのでしょうか?
 民法の考え方(立法趣旨)は、経済的弱者である制限行為能力者の取消権行使を容易にするため、ということのようですが、”浪費した”200万円を返さなくてもよいとしている点にまず驚きます。
 加えて、判例によれば、先ほどの土地の売却代金3,000万円のうち、「生活費(賃料や食費など)に費消したものは返還すべし」と言っています。これは、生活費は、もともと費消する予定があったものだからという理由ですが、『生きていくために必要なお金は返すべきだが、遊びに使ったお金は返さなくていい』という考え方に違和感を覚えます。皆さんはいかがでしょうか?
 私は授業でこの部分に差し掛かると、とりわけ受講生の皆さんに注意を促し、「法律と裁判所の考え方をできるだけ素直に受け止めるように」と指導しています。
 何しろ、われわれが目指しているのは「国家試験」の突破ですから、学者になるのならともかく、国にたてついても試験が受かりにくくなるだけですからね。ある程度の腹のくくり方は覚悟しなければなりません。

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久保 剛(潟vレスエイジェント代表取締役 不動産アナリスト)
株式会社プレスエイジェント 
ホームページ http://www.press-a.com

執筆者プロフィール

久保 剛 株式会社プレスエージェント代表取締役 不動産アナリスト メールアドレス tko@press-a.com