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実践!コスト競争力アップ 第3回 トップの意識

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 前回は、事例企業のA社が、社内原価の構築に向けて、まずは社内の現状把握を行ったことをお話しました。今回は、少し話を戻して、A社でのプロジェクトチームの紹介をしながら、どのようにチームを結成したのか、また、これらにおけるトップの役割やトップの意識の重要性について解説します。

 A社では、社内の現状把握を行うに当たり、「社内原価構築プロジェクトチーム」を結成しました。メンバーは、工事、営業、積算、総務経理から1名ずつ、業務経験もITスキルも中堅クラスの社員です。そして、プロジェクトリーダーは、数年後の社長後継者と考えられているK専務が務めることになりました。

 社内原価の構築、すなわち現状の業務のやり方を変えたり、今までやっていなかったことをやろうとする場合には、少なからず社内に反発が出てくるものだと思います。そのため、何のためにやるのかといった目的をきちんとトップから説明することが重要となり、プロジェクトのリーダーは、トップもしくはK専務のような次期社長候補が務めるのがよいと思います。
 後日談ではありますが、K専務はこのプロジェクトをやり切ったことが、社内でリーダーシップを発揮するきっかけとなり、その後の社長交代もスムーズにできたといいます。

 プロジェクトのメンバーが、前回お話した社内の現状把握を行った結果、さまざまな問題点が浮かび上がりました。例えば、各現場で行われる発注業務については、他の人がいくらで発注しているかなどの情報は、個人的に仲のよい代理人や上司とだけ共有する程度でした。また、実際に発注している人から積算担当者にフィードバックする仕組みもなく、積算担当者は材料・外注業者の一次見積(通常、その後の値引き交渉を見越して高めに言ってきている)で積算していました。そのため、これは営業を行うK専務が日々感じていたことではありますが、積算価格から一体いくらまで値引き受注してよいのか、わからないという現実がありました。

 現状把握を一通り終えた段階で、当社で社内原価の構築・運用をしていくことは、当初の予想以上に効果が大きいだろうと感じられました。そこで、K専務は全社会議の場で、お客様からのコストダウンや見積等のスピードアップに対する要請が強まっていること、ライバルとの競争も激しくなっていることなどを今一度説明した上で、社内の「一番」の原価情報を集約し、競争力ある見積を作成したり、下請業者と根拠ある交渉をすることが重要であることを訴えかけました。

 K専務のようなリーダーが従業員の協力を得ながらプロジェクトを推進するには、次の3点がポイントになると思います。
 @原価データベースの構築自体が目的ではなく、それを活用してどのような会社を作りたいかをきちんと伝えること。自社の経営計画の目標とリンクさせることなどもよいと思います。
 A導入にあたり、一時期は業務量が増えることがあっても、最終的には皆が楽になる仕組みを作ること。そして、そのような意図を最初にきちんと説明すること。
 Bリーダー(トップ)が掛け声だけでなく、自ら率先してやる姿を見せること。
 このように、社内原価の構築・運用をスタートするには、トップの意識と行動が伴ってこそだと思います。

執筆者プロフィール

みどり合同経営 コンサルティング部建設業経営支援研究グループ