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実践!コスト競争力アップ 第11回 社内原価の活用(実行予算管理)

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 前回までは、社内原価の活用のうち、積算や発注業務についてお話してきました。今回は、社内原価を実行予算管理に活用するメリットについて解説したいと思います。「あれも・これもは難しい」とお感じになるかもしれませんが、大変なところ(社内原価の構築作業)はもう済みました。あとはどんどん活用していきましょう!
 積算の段階で社内原価や標準歩掛りの活用が進むと、十分に根拠を持った積算ができることは以前にお話した通りです。これは実行予算を作成する際にも活用することができます。積算段階では、十分な施工計画の検討ができていないため、実行予算の作成時には現場に応じた内容に転換していく(発注の単位や順番に分ける)必要がありますが、積算段階で「基準」が明確になっていることで、判断がしやすく、スピーディーに精度の高い実行予算を作成できることになります。実行予算を作ることよりも、本来の目的である「予算と実績を対比して管理していく」ことに時間を使えるということです。

 事例企業のA社でも、徐々にではありますが、そのような状況になってきています。もちろん、A社では8工種に絞って社内原価を構築したため100%とは言えませんが、社内原価という基準ができたことで、だれがやってもバラつきの少ない実行予算が作成できるようになりつつあります。

 A社では以前から、実行予算を各現場の代理人が作成していましたが、社内原価がなかった頃は、実行予算に余裕を持たせて作成する人と、そうでない人の差がどうしても出てしまうというのが、K専務の悩みの種でした。例えば、ある人は、手戻りや発注ミスが出た場合にカバーできるようにするために、余裕を持って本来の120%で実行予算を作成する。他の人は、同じ工事であっても、少し無理をして強気に80%の実行予算を作成するといった具合です。

 A社では、実行予算での予想利益に対し、完工後の実際の利益が多く出た場合には、それを現場代理人の「頑張り分」として評価し、年に1度の社内表彰制度も設けています。しかし、120%の実行予算を作成した人が、110%で終了した場合、「予算内に収めた」と誉めてよいのだろうか・・・とK専務は長い間、疑問に思っていました。社内での不公平感もあるようでした。

 実行予算に社内原価が活用されるようになると、余裕のある実行予算も、特に無理をした実行予算もなくなり、一定の基準のもとにバラつきの少ない実行予算が作成されることになります。実行予算が、現場代理人の性格や経験に左右されることが少なくなるのです。そうなると、本来の現場代理人の能力差が明確になり、工程管理や安全管理などを徹底させ、より段取りよく工事を仕上げた人が、適正に評価されることにつながります。

 これはA社にとって、非常に大きな意味をもちました。現場ごとの不公平感がなくなり、皆が必死になって実行予算の守り切りを追及してくれるようになりました。実行予算管理に対する意識も高まりました。

 また、1本1本の工事の実行予算がスピーディーに、かつ高い精度で作成できるということは、早期に会社全体の年間利益予測ができることにもつながります。そのため、経営判断もしやすくなったとK専務は感じています。

 次回は、最終回となります。どうぞ最後まで付き合い下さい。

執筆者プロフィール

みどり合同経営 コンサルティング部建設業経営支援研究グループ