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身近な社会学 第12回 卵が割れない女子高生

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彼女は、小さな頃から「超」がつくほどのご両親の愛を受けて育ってきた。
特にお母さんは何から何まですべて、先回りして整えてくれたそうだ。
他と比べようのなかった彼女にとっては、それは当り前のことだった。例えば、

『学校を卒業するまで、自分で明日の持ち物を揃えたことがない』
明日の持ち物、教科書等は、母親がすべて揃えてくれたという。
汚れたものは自分で出さなくても知らない間に新しいものに変わっていたので
帰ってきて置いたカバンを次の日はそのまま持って行けばよかったそうだ。

『学校の提出物もほとんど自分でやったことがない』
家庭科の提出物があるとすると母親が用意して作ったものを提出していたそうだ。

『卵を割ったことがない女子高生だった』
生卵を食べるときは、母親が卵を割って、カラザをとり、醤油を入れて混ぜ
ご飯の真ん中をへこませて、卵を流しいれた状態で食卓に出してくれたという。

以下、比較として我が家の状況を列記してみた。

『学校を卒業するまで、息子のカバンを開けたことがない』
計画帳をしっかり書かない息子は、毎日、同じクラスの友だちに電話をして聞く。
そのうち慣れっこになって「聞かなくてもいいや」と電話もしなくなり
状況はエスカレートし、ついに忘れ物チャンピオンに輝く。
「忘れてもなんとかなるさ」と、間違った根性だけが養われてしまった。

『学校の提出物は、私には関係ない』
提出物どころか、学校からのプリントも持ってこない状況は、さすがの私も怒り心頭。
見るに見かねた友人が、参観日などの予定を逐一連絡してくれる。
家庭科の提出は一度、手伝ってほしいようなことを言われた記憶がうっすらあるが、
「私の提出物ではない」と拒否したため、二度と頼まれることはなかった。

『生卵を食べたい人は自分で用意』(以下、心の声)
生卵?醤油?冷蔵庫にあるでしょ。入れ物?何だっていいでしょう。自分で考えて。
カラザ?それも栄養。そうそう、ぐるぐるってかき回せばわからないから。

調理実習で卵が割れなかった彼女に友人が爆笑しながら
「お嬢さんだから仕方ないなあ。さあ、やってみよう」と割り方を教えてくれたそうだ。
彼女がしみじみ言った。
「とても情けなかった。そして笑って言ってくれた友人に感謝しました」
その後彼女は「このままではいけない。自分が変わらなくては」と心から思ったそうだ。
就職してからも一般常識でわからないことが多く、大変苦労したと話を続けた。

「でも、そのとき気がついてよかったね。それに、素晴らしい友だちがいてよかったね」
今は一時の母となった彼女は「はい」とニッコリと笑った。

相手のために良かれと思ってやったことが
度を過ぎてしまうと逆に相手のためにならないこともある。
しかし、あまりにもやらなさすぎることも、よくはない。

話を聴きながら、自分のことを振り返り、反省した一日だった。

執筆者プロフィール

太田稔子(おおたとしこ) キャリアカウンセラー 交流分析士 各種講師 メールアドレス kerorine1205tm@yahoo.co.jp