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法律が作った土壌汚染 第10回 「規制項目と基準値について」B

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 海水中のふっ素の濃度は概ね1.3 mg/ℓ程度であって、地下水環境基準(=土壌の溶出量基準)の約1.5倍の濃度です。海水浴に行った人は、土壌溶出量基準の1.5倍のふっ素を含む海で泳いでいるわけです。海の水は淡水で全体が薄められることはありますが、世界中どこへいっても成分の濃度比は変わりません。日本ばかりではなく世界中どこへ行っても環境基準を超過してしまうわけで、海域の環境基準にはふっ素は適用しないことになっています。
 温泉にも結構、ふっ素の濃度が高い温泉があります。日本の温泉482試料のふっ素濃度について調べた資料(松浦ら(1972))では、半分以上の温泉水が溶出量基準値より高い値であり、10倍を越えるものも51試料ありました。日本では温泉水を飲む習慣がありますが、環境省では温泉成分に応じて温泉水を飲用量の基準を決めています。ふっ素に対する温泉水の総摂取量は1日あたり1.6mg(昭和50年環自企424号)とすることとされていて、1日に2 ℓ 飲むとすると土壌溶出量基準値と同じ濃度となります。
 前回、虫歯予防のため水道水にふっ素を添加している国があるとお話しました。虫歯予防にはもっと積極的にふっ素は使われています。歯科医では歯の表面にふっ素化合物を塗って歯を強くすることが行われます。ふっ素入り歯磨き剤も広く市販されています。WHOでは虫歯予防のため、フッ化物配合歯磨剤の使用を推奨しています。多くの国ではフッ化物配合歯磨剤のシェアは90 %以上に達し、世界中では4億5千万人の人が利用していると見積もられています。国内の主要メーカーにヒアリングしたことがありますが、各メーカーとも1,000 mg/kg近くの濃度を添加しているとのことでした。添加されているふっ素化合物は水にも溶けやすく、口腔内では相当高濃度となると考えられます。幼児などでは使った歯磨き剤をほとんど飲み込んでいるでしょう。
 茶などのツバキ科の植物は、ふっ素の濃度が高いことが知られています。製品茶から浸出(浸出時間は2〜30分)されるふっ素は67〜73 mg/ℓ (玉露粉末60℃)、33〜147 mg/ℓ (番茶100 ℃)、133〜200 mg/ℓ (紅茶100 ℃)、37〜43 mg/ℓ (ウーロン茶100 ℃)などのデータ(松浦ら,1972)があります。これって、土壌溶出量基準の数十倍から百倍以上ですよね。
 少しデータが古いですが、市販の缶入りお茶類について調べた例(小山(1997))を表に示します。紅茶やウーロン茶の平均は土壌溶出量基準を超過していますし、2倍程度の製品も販売されていますね。
 昨年、霞ヶ関の環境省の入っている合同庁舎の地下食堂のお茶と東京都庁の食堂のお茶を持ち帰って分析してみました。環境省の地下食堂のお茶は溶出量基準の約2倍、都庁の食堂は基準を満足していました。たまたま環境省のお茶のほうが濃かったのでしょうね。濃いお茶は疲れた体にいいですよね。
 さて、都内のレストランや食堂のお茶のふっ素の濃度を調べてみれば少なくとも何割かは溶出量基準を超過していることと思います。水道水の基準としての0.8 mg/ℓは、誰もが飲む水として供給される水の基準として、ミソッ歯を作らない基準として理解します。虫歯予防はもっと別な手立てを考えてくださいということですね。飲みもしない土壌抽出液(溶出水)にミソッ歯を作らない水道水と同じ(世界的に見れば水道水以上の)基準を設けて、汚染土壌として判断した場合は調査対策費をつぎ込むことが本当に正しいことなのでしょうか。法律を間違えて決めてしまったと考えられる場合はすぐにでも改正の議論を始めるべきだと思います。

執筆者プロフィール

九官鳥 地質調査会社社員 メールアドレスhza01754@nifty.ne.jp