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身近な社会学 最終回 大切な言葉

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楽しく続けさせていただいたこのコラムも、今回が一区切りです。
春の新しい門出にちなみ、私が新人の頃にもらった大切な『言葉』を紹介します。

なぜかしら小さな頃からひねた子だった。
中学まではそれほどでもなかったが、女子高だったことが幸い(災い?)した。
リーダーを任されることが多く、身長も高かったため、
クラスでは共学での男子のような役割を担っていた。
また、一般的な群れる女子高生の行動
“何処へ行くのも一緒、トイレまで一緒に行く”は、私には理解不可能だった。

就職してからもこのスタンスは変わらず、他の女子と群れることはなく
ひとりで行動・食事することも全く苦にならなかった。
同じ年代の女子社員の中では稀有で、どちらかというと男子社員に近かったようだ。

直属の上司は厳しいが、仕事に対して信頼のおける方だった。
新入社員のいたらなさを、たくさん気づいていたと思うが
嫌味を言うわけでもなく、寡黙に見守ってくださった。

となりの部署に同じ年代の女子社員がいた。
彼女は見るからに女の子、可愛らしい素直な女性だった。
わからないことがあっても
「えっ、うっそ〜。わたし生まれてなかったからわっかんな〜い」とニッコリ笑える。
彼女を見ながら、自分には決してもちえない魅力に軽く羨ましい気持ちと
嫌いなわけではないのだが、少し疎ましい気持ちが混在していた。

部署の人たちで雑談をしていたときのことだ。
何十年か前の有名な事件についての話になった。
「そういえばこの事件のとき、まだ○○は生まれていなかったんだよな。
うわ〜、年代の違いを感じるな、俺なんて記憶があるからな」
私の年齢を引き合いに出して、先輩社員が言った。
『そうなんだ。ひねているとはいえ、私も若いんだ』
改めて若さを強調されて嬉しくなった私は、
「そうなんですよ。この事件は生まれる前のことなので、わかりません」
と彼女のようにはいかないが、精一杯ニッコリ笑って言った。(と思う)

それからかなり時間が経った。
私は自分が言った言葉などすっかり忘れていた。
たまたま部署に上司とふたりきりになったとき、優しい眼差しで上司が言った。

「わからないこと、知らないことがあることは恥ずかしいことではない。
しかし、威張って言えることではないよ。
わからないことを、そのままにしておくことが恥ずかしいことだと、私は思う」

この言葉を聴き、私は雷が落ちたような衝撃を受けた。
あのときの言動の中に「若いんだから仕方ないでしょ」
という気持ちがあったことを見透かされていたショックと
自分の未熟さに対する恥ずかしさと情けなさでいっぱいだった。

今でも頻繁に思い出す、新人時代に上司からもらったとても大切な言葉だ。
この言葉は、初心を忘れないという、私の原動力だ。

今後の研修でも、真剣に取り組む受講者との出会いがたくさんあるだろう。
皆さんと大切な時間を共有できる感謝の気持ちを忘れずにいよう。
そして、ほんのすこしでも皆さんの心に何かを残すことができたら…
こんなに嬉しいことはない。


*徒然の文章を、これまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
 さらにパワーアップした姿でお会いできるよう、日々精進して参りたいと思います。
 皆様の幸せを、心よりお祈り申しあげます。
                              太田稔子

執筆者プロフィール

太田稔子(おおたとしこ) キャリアカウンセラー 交流分析士 各種講師 メールアドレス kerorine1205tm@yahoo.co.jp