建通新聞社

建設ニュース、入札情報の建通新聞。[建設専門紙]

法律が作った土壌汚染 「規制項目と基準値いついて」D 鉛

いいね ツイート
0

鉛は紀元前3,000年以前から使用されてきたといわれており、紀元前370年代の鉛中毒についてヒポクラテスの記述があるとのことです。グリーンランド氷雪中の鉛の調査によれば、2,500年前から1,700年前には自然値の4倍の濃度の鉛汚染が報告されています。これは産業革命よりずっと以前のギリシャ、ローマ、中世およびルネッサンス時代に概ねあたります。

人に対する有害性は貧血、神経系への影響、腎臓への影響などが知られています。末梢神経への影響もありますが中枢神経への影響として鉛脳症が知られており、米国では含鉛ペンキの剥離片を摂取した小児が落ちつきがない、不安、不眠、記憶力低下などの症状を示し、進行すると痙攣や昏睡状態となって死に至る事例が報告されています。日本でも母親が化粧に使用した鉛を含む白粉(おしろい)を、授乳の際になめた乳幼児が急性鉛脳症で死亡し、含鉛白粉の使用が禁止されました。小児の長期間の低濃度暴露では、知能指数の僅かな低下等が認められるとの報告もあり要注意です。

鉛の基準値はWHOの飲料水のガイドライン基準値を元に決められています。JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門委員会(1986))においては、幼児に対するPTWI(暫定耐用週間摂取量)が25 μg/kg/week(TDIとして3.5 μg/kg/dayに相当)とされており、水の寄与率50 %、幼児体重5 kg、飲用水量0.75 ℓ /dayと設定して基準値を0.01 mg/ℓ 以下としています。この数字が、飲料水、表流水、地下水、土壌溶出量の基準として決められているのです。

鉛製の給水管が我国では近年まで広く使用されてきました(まだ使われています。)。鉛管は錆が発生せず、柔軟性に富み、加工や修繕が容易であるという特徴があったからです。しかし、WHOのPTWI 25 μg/kg/weekの決定(1986年)を受けて、当時の厚生省は1989年に「新設の給水管には鉛溶出のない管を使用すること」との通知をだしました。

これ以降は確かに新しく水道管を付ける時は鉛管は使用されなくなりました。水道事業者の給水管は鉛管から交換されていきましたが、配水を受ける既存建物の水道管が積極的に交換されているという話は聞いていません。鉛溶出量基準を超過した土壌は掘削除去するけれど、インゴット(100万ppm)の鉛に接した水を毎朝飲んでいらっしゃる方は結構多いのではないでしょうか。

東京都水道局の調査(2001)では配水管から蛇口までの間に鉛が使われている水道は365万件の調査のうち169万件であったとのことです。同じ調査で3 m以上の鉛製給水管を使用している場合の朝一番の水は30 %以上が0.01 mg/ℓ を超過しているとのデータが得られています。不動産業界では土壌環境基準を超過した土地を販売する場合は、掘削撤去を行うということが原則との話は聞いていますが、中古建物の販売の際に鉛の水道管は全て撤去するとして販売している不動産会社の話は聞いたことがありません。

こんな話もあります。1993年には水質環境基準の大幅な改正があり、鉛も0.1 mg/ℓ から0.01 mg/ℓ へと1/10に基準が厳しくなりました。ところが水道水基準は環境基準改正に追随することができず、0.1 mg/ℓ から0.05 mg/ℓ へと1/2となりました。これは水道事業者(供給者)に鉛の排水管が多く残存し、基準を厳しくできなかったものと考えられます。環境基準(環境水の達成目標値)と水道水基準(水道水の品質基準)の逆転現象は約10年間続き、水道水水質基準0.01 mg/ℓ は2003年から適用されました。

タバコを1本吸うと煙の中に50ngの鉛が含まれているということです。1箱20本として1箱のタバコは1μgの鉛を吸うことになります。毎日、タバコを1箱吸う方は、10日で土壌溶出量基準値の水1リットル相当の鉛を摂取していることになります。

射撃場での鉛汚染が問題となって、調査や対策が行われてきました。環境省はガイドラインも作って土壌汚染対策が各地の射撃場で行われています。でも、オリンピックなどの正式競技ではまだ鉛弾が用いられているとのことです。

魚釣りの錘(オはさんでモリ)には鉛がよく使われます。私も釣りは好きで、機会があれば楽しみます。昔から「噛み潰し」というオモリがありました。オモリに半分に割れ目の入った鉛製で、釣り糸を割れ目にはさんで割れ目をつぶすとオモリが糸にしっかりと付きます。私は今もそのオモリを使うときは歯で「噛み潰し」ています。おそらく歯に鉛がべっとりと付いていることでしょう。川でも海での根がかりして仕掛けをとられることはよくあります。仕掛けについていた1gの鉛のオモリはすべて溶けるとすると100トンの基準超過汚染土壌の負荷を環境に与える事となりますが、オモリを使った釣りの規制はしなくていいのでしょうか?

人は古くから「鉛」と付き合い、その被害にもあいながら有効利用してきました。いま、土壌汚染ばかりでなく様々な製品や身近な生活から「鉛」が削減されています。生活環境から鉛の負荷を削減していくことは重要であると思いますが、安全に活用していくことも重要なのではないかと思います。

執筆者プロフィール

九官鳥 地質調査会社社員  メールアドレスhza01754@nifty.ne.jp