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法律が作った土壌汚染 「規制項目と基準値いついて」E

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環境省が毎年、土壌汚染の調査・対策について取りまとめている集計(*1)によれば、土壌汚染調査で基準超過した項目の50%は鉛、砒素、ふっ素で占められ、第2種特定有害物質に限ると7割にもなります。これら3物質は自然由来が原因で基準超過となることも多く何かと問題となる3物質ということで字数をとって書いてきました。しかし、今後もこの調子で特定有害物質25物質について書いていくと大変なことになるので今回からは少し進めていきます。


ほう素

ほう素もふっ素と同じく海水中に結構たくさん含まれていて、概ね4.4mg/ℓ含まれています。土壌溶出量基準(=地下水環境基準)が1mg/ℓですので、4.4倍の濃度です。海水浴に行った人は、土壌溶出量基準の4.4倍のほう素を含む海で泳いでいるわけです。海の水は淡水で全体が薄められることはありますが世界中どこへいっても成分の濃度比は変わりません。日本ばかりではなく世界中どこへ行っても環境基準を超過してしまうわけで海域の環境基準にはほう素は適用しないことになっています。
ほう酸はゴキブリ退治にほう酸団子として使います。ネットでほう酸団子のレシピがありましたので以下に引用します。

ほう酸団子のレシピ
タマネギ一個(みじん切り)/ホウ酸 これが主役でして薬局で販売しています。(200グラム)/小麦粉 カップ半分/牛乳 大さじ一杯/砂糖 大さじ一杯/水 適量/お好みにより これにリンゴ、蜂蜜、ジャガイモなどを加えます。

出来合い製品のほう酸団子は商品としてもネット通販されています。散布の注意書きには、台所には撒いてもかまわないが庭に撒くと土壌汚染の恐れがあるので撒かないで下さいと書いてあるのでしょうか? 100mℓの水に2〜3g位は溶けるのですぐに第2溶出量基準をも超過すると思います。
目薬にもほう酸が使われています。目には点眼しても、土壌には決してたらしてはいけませんね。
私たちの生活で土壌汚染以外に使われている有害物質の規制のあり方や、逆に土壌汚染対策法で規制のあり方も考える必要があると思います。


シアン

シアンの溶出量基準は「検出されないこと」(0.1mg/ℓ未満)で、その問題点については第6回のメールマガジンでお話ししました。含有量基準は50mg/kgです。溶出量試験で分析しているシアンは全シアンで、含有量試験で分析しているシアンは遊離シアンですので注意が必要です。遊離シアンと全シアンの違いは基本的には蒸留するときの分析条件によるため、その定義(実際、何を分析しているのか)は難しいですが・・・。
シアンは自然的原因で土壌基準を超えることはないといわれていますが、梅、杏、アーモンドなどのバラ科の植物にはシアン化合物(配糖体)が含まれているということです。廃水管理ではシアンを使っていない工程廃水からシアン化合物が検出されることがあり問題になっています。どうも分析の過程(蒸留中)にシアンが合成されることがあるようです。土壌の場合は確かめようがありませんがそのようなことは起こらないのでしょうか。
以前、写真現像液が原因のシアン汚染の調査を行ったことがありました。漏洩した現像液が土壌に浸透したところでは土壌に含まれている鉄とシアンが反応して青い色がついていました。その部分を現地で簡易分析を行うとシアンが高度濃度で検出されました。
遊離のシアンは毒性が高いですが、鉄などと錯体を作ったシアンは毒性がはるかに低くなるということです。
ところでシアンは昔から青色の染料として広く使われてきました。水彩絵具でもプルシアンブルーの名称で現在も販売されています。野外の風景スケッチなどで青色を使ったとき、筆を洗った水をこぼすと土壌汚染をしてしまうのでしょうか?
土壌溶出量基準は地下水環境基準の孫引きですが、「シアン化合物」の化学種を考慮した検討が必要なのではないかと考えます。

*1:平成21年度 土壌汚染対策法の施行状況および土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果(平成23年3月)環境省水・大気環境局

執筆者プロフィール

九官鳥 地質調査会社社員  メールアドレスhza01754@nifty.ne.jp