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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第3回 農業生産法人かわにしの丘しずお農場株式会社(北海道士別市)

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建設業の能力を結集、新たな農力へ
―農作業請負からめん羊まで―
農業生産法人かわにしの丘しずお農場株式会社(北海道士別市、代表取締役今井裕)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細は http://www.kentsu-it.jp/book/book.html


【従業員削減せずソフトランディング】
 しずお建設鰍ヘ1968年の設立後、主に道路舗装・河川改修・緑地造成・圃場整備などの事業を行ってきた土木建設会社である。しかし、公共事業費削減のあおりを受けて、北海道開発局、北海道、地元の士別市のいずれからも工事受注が減少した。今後に向け、建設業だけの限界を感じ、従業員の人員削減をせずにソフトランディングできる道を事業の多角化の中に探ってきた。

 その一つが環境・リサイクル部門への進出である。自社所有している山林地に処分場を建設し、2001年7月に産廃最終処分場(安定型)としての許可を受けて稼働を開始した。近年は建設系産業廃棄物の処理受入量が減ってきたため、07年度に道北では数少ない医療廃棄物の最終処分業許可を得て、新たな事業展開を進めているところである。

 同社のもう一つの多角化戦略は、農業分野への進出である。そのきっかけは日本甜菜製糖士別工場に閉鎖の話があり、その事態を回避するため、市と農協が市内で原料必要量を確保できるよう地元企業にビートの生産支援を依頼したことにある。しずお建設は、関連子会社であるしずお運輸鰍ェ日甜からビートの運搬業務を受注していたので、この依頼に応じ、士別FC鰍設立して99年よりビートのコントラクタ(農作業請負)業務を始めることとした。

 当初はビートの生産を事業の中心に据えていた同社であるが、市からの要請を受けて06年よりサフォーク羊の飼育も開始した。羊を導入する際には、古い牛舎の改造で済ますことも多いが、同社では畜産部門は新設であり、かつ観光牧場化を当初より計画していたため、羊舎を新しく建設することとした。そのための資金は、しずお建設の取引行の担当者から紹介されて、日本政策金融公庫(旧農林漁業金融公庫)よりスーパーL資金で借り入れた。また、その資金で繁殖用のサフォーク羊を近所の農家から100頭余り仕入れて飼育を始めた。これに合わせて、06年7月に社名を士別FCから現在のかわにしの丘しずお農場鰍ノ変更している。

【農作業請負から】
 農地は当初、主にビート作付け用の40fほどから始めたが、その後さらなる造成と隣接地の購入により、現在は180fまで増えている。これらの農地は、耕作放棄地を同社が購入し、集めたものである。購入地の造成・整地は、しずお建設へ委託している。現在の作付構成は、ビートが40f、その他小麦、デントコーン、アスパラ、ジャガイモ、カボチャなど合わせて30f、羊の放牧地が87fである。それ以外に主にトマト用のハウス6棟と羊の畜舎(雑種地)があり、事務所やレストラン・ファームイン用に宅地転用した面積なども含めて合計で180fとなる。

 ビートに関しては、同社設立後は外部からの作業請負はせずに、自社の耕作地のみで、近年は育苗から栽培を行っている。小麦とデントコーンはビートの輪作用地を確保するために作付けている側面がある。近年の飼料高により羊の配合飼料の購入コストがかさんでいるため、デントコーンを06年から始めた。デントコーンはサイレージにして、日甜の工場から出るビート粕や等級外の大豆・小麦と混ぜて羊に与えている。ビート粕は現在のところ安価で購入できているし、しずお運輸で農家から集める等外穀物も運送賃分は高く買えるため、他地域に出すより双方にメリットがある。このような飼料自給率向上のための取り組みは、外部に対してはトレーサビリティの確保、内部的にはコスト削減の効果が期待できる。ただし、そのために生産性が落ちては困るので、TMR(混合飼料)と同等になるようにカロリー計算をした上で自家配合している。

 年間雇用は18人で、そのほかに17人、パートを雇用している。パートの中には農業経験者として農協の退職者もいる。正社員を含めて定年制はとっていない。年間雇用者18人のうち5人は08年11月にオープンしたレストランの厨房担当である。しずお建設から転籍した正職員は、ビートやデントコーンの作付け、収穫およびめん羊の飼育などの作業を担当している。それ以外にしずお建設からは、各種作業の派遣就労があるが、これは外注扱いなので、農場の雇用とは別である。

【ソフト開発のプロセス管理を適用】
 同社の今井は、東京でのソフトハウス経営を経て、04年に士別市に戻って以来、農場管理を任されている。06年からのめん羊導入決定時には、今井は道内のめん羊飼育農家を訪問調査し、課題整理など事前の準備を行った。そして、集めたデータにソフト開発のプロセス管理手法を適用し、給餌や放牧などの飼い方から分娩・と畜まで工程ごとに分析して、重要管理点を抽出した。

 ラム肉出荷の問題点は、出荷時期が偏ることである。自然繁殖だと子羊は2〜3月ごろに集中して生まれるので、10月には出荷が終了してしまい、最も需要の高いクリスマスや正月にはモノがないという事態に陥る。そのため現在は夏のバーベキュー用が中心となっている。しかし、そもそも外食産業は通年の安定供給を望み、季節限定メニューは好まない。そこでこの問題を解決するために、同社では主に二つの技術開発・導入を行った。

 その一つは急速冷凍システム、CAS(CellsAliveSystem)フリーザーの導入である。これは、その名の通り細胞膜を壊さずに食品を急速に凍結させることで、解凍時にもドリップが出ないように保存できるシステムであり、現在全国各地で導入が進んでいる。

 もう一つの技術開発は、人工授精による羊のバース・コントロールである。これは帯広畜産大学および士別市との産学官連携で取り組んだ。08年夏の実験により受胎率が向上し、12月からベビーラッシュを迎えた。

 また、付加価値を形成していくため、食肉加工場の建設を核として新たな出荷体制を構築することで対応しようとしている。

【グループの経営資源を利用】
 農場隣接地に食肉加工場を建設し、解体処理から部位加工までを行うことにした。この施設は農場ではなく士別環境開発鰍ノ所属することとし、新たな事業部門導入に当たり同社は08年4月にしずおエコロジー鰍ニ改名した。部位ごとに異なる価格設定が可能となり、骨付きステーキとして使用されるラック(背肉)の部分などは5000〜7000円/`で販売できている。

 「サフォークランド」と銘打っている関係で、士別市全体で羊の品種はサフォークに統一されている。サフォークには、出生数が1・3〜1・4頭/回と、ロマノフ種(同3・8頭)などと比べて少ないという欠点があるが、その分早く大きくなる利点もある。しずお農場の07年度の出荷頭数は、羊導入直後ということもあり、20頭に過ぎなかったが、その後、飼養頭数が順調に伸び、08年5月現在で340頭まで増えた。同時期の士別市全体の頭数が666頭であるから、この段階で同社は市内の羊の半数以上を飼養するに至っている。公庫の資金を借り入れた当初の計画では5年後に500頭まで増やすことになっていたが、その計画は4年に前倒しできる見込みである。このように順調にしずお農場の事業が規模拡大しているのは、しずお建設グループの経営資源と信用を初期投資に利用できたからである。

【加工食品の開発へ】
 地域産業資源サフォークめん羊の特徴(高タンパク、高ミネラル豊富、低脂肪)を生かしたハム、ソーセージ、ベーコンなどを開発・販売しようとするが、サフォークめん羊の生産から加工、販売を一環して手掛けられるのは当社だけであり、これまで他地区においても着手されていない。道内では、サフォーク肉を使った手づくりのソーセージの販売を行っている業者はいるが、本格的に市場展開している例はない。

 また、サフォークめん羊のと殺から解体処理、急速冷凍までの短時間化を実現できるのは、CAS冷凍技術と自社の加工施設を保有しているためだ。当社の最大の強みであるとともに新規性を打ち出すことができる。いつでも作り立ての味を引き出し、提供することが可能となる。

 本事業の取り組みは、グリーンツーリズムの一環として位置付け、体験農場と地元食材を使ったレストランによって、道内客を呼び寄せることで「サフォークランド士別」としてのブランド構築を目指す。士別市が一体となった取り組みを展開することで、地域発展の一翼を担う。

 また食肉加工施設の建設により、一頭平均でなく部位ごとの価格設定ができるようになった。しかしその場合、ラック(背肉)やショートロイン(腰肉)のような高級部位だけでなく、堅くて人気のないレッグ(もも肉)など売れない部位も出てくる。ただし、シャンク(すね肉)のように余った部位でも、カレーやシチューのような煮込み料理には向いているなど、利用法によっては付加価値を付ける余地がある。そこで、同社ではこれらの肉を利用したレトルトカレーを開発し、08年12月から発売している。士別市では既に市の「サフォークランド士別プロジェクト」の中でレトルトのラム肉スープカレー「羊のまちのスープカレー」を開発し、07年8月から先行して販売しているため、それとは競合しないようにご飯にかけて食べるタイプのものとした。これらは砂川のハイウェイオアシスやどさんこプラザなどで販売し、道内のお土産カレーとしては上位のランクに入っている。

 サフォークの生肉については11年2月の雪まつりに焦点を当てた三越の北海道物産展に出店し、精肉部門で過去に例をみない売上を計上した。

 これは、東京・駒込にある女子栄養大学の稲葉ゼミの女子学生との産学連携の商品開発によるものと思われる。学生たちによる、しずお農場で収穫したトマトを使った「乙女のしゃぶしゃぶトマトだれ」「乙女のしゃぶしゃぶポンズだれ」の試作品のお披露目販売が相乗効果を生み出した。

 また高級部位といわれるステーキ用のラックは、10年11月の横浜APECの晩餐会にも使われ、オバマ大統領、胡錦濤主席、メドベージェフ大統領など各国首脳にも味わっていただくことができた。現在も成田発国際線10路線のファーストクラスのディナーにも使われている。

 また、BBQの肉としても、三越札幌などのデパ地下などで11年3月から常設販売されることが決まった。

【長期的資金回収など課題】
 今後この先行投資を回収していく際には、しずお建設にとって次の二つが課題となっている。

 一つには、建設業は受注産業であるため、見込み生産を行わず、投資から資金回収までの期間が短いという特色があり、長期的な資金回収計画のノウハウを持っていないこと。もう一つには、新分野進出に当たり長期借り入れや固定資産を増やすことで、経営事項審査の総合評価値が下がり、本業である公共事業の受注に影響する恐れがあること。この2点である。これらの課題は、当然しずお農場の今後の事業展開にも大きく関わることであるため、その解決に向けて同農場でも利益が上がるような体質改善に取り組む必要がある。


企業プロフィール
【会社名】農業生産法人かわにしの丘しずお農場株式会社
【代表者名】代表取締役今井裕
【所在地】北海道士別市東二条北3ノ17
【電話】0165(22)2151
【資本金】9500万円
【創業年】2004年4月
【社員数】26人(うち建設業従事約10人)
【URL】www.shizuo-farm.com/
【事業内容】畜産(めん羊飼育)、ハウス蔬菜栽培(トマト、ルッコラ、アイスプラント等)、路地野菜(さとう大根「甜菜」など)
【関連会社】しずお建設梶、しずお運輸梶、しずおエコロジー
【複業含む就業者数(パート含む)】150人

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu-it.jp/book/book.html