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『複業のすすめ』より 建設トップランナーの挑戦 第22回「地域の安全・安心は地域の業者が守る」 佐久間建設工業株式会社(福島県三島町)

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地域の安全・安心は地域の業者が守る
―維持管理業務の一括共同受注―
佐久間建設工業株式会社(福島県三島町、代表取締役佐久間源一郎)

※連載「建設トップランナーの挑戦」は、書籍『複業のすすめ』(米田雅子+地方建設記者の会、当社刊)の中から、新しい挑戦を行う全国の中小建設業の取り組みを抜粋して紹介しています。書籍の詳細・申し込みは http://www.kentsu.co.jp/products/book.asp

【地方経済と雇用は危急存亡の秋】
 「昼時になっても国道(252号)に除雪車が来ない。県道・町道の除雪車も緊急に国道除雪に切り替えろ」「国道が倒木により寸断された。全従業員非常出動せよ」―。

 2010年の年末、緊迫の怒号が飛び交った。停電で携帯電話だけが連絡の生命線だが、激しい消耗ですでに電池は底をついた。カーバッテリから電源を取るため、車の中が緊急の連絡基地と化した。

 公共事業の大幅な減少と入札制度改革に伴い、地方建設業界の衰退は激しい。公共工事依存度の高い地方経済と雇用の現状は、まさに危急存亡の秋(とき)にさらされている。

 こうした状況は、住民の命と暮らしを守る根幹である地方公共道路の修繕や除雪など、維持管理業務にも甚大な影響を及ぼす。

 危機感を募らせた奥会津の建設業者と福島県は、維持管理の一括発注と共同受注をスタートさせた。福島県宮下地区建設業協同組合(理事長佐久間源一郎)の一括共同受注の取り組みを紹介する。

【地域は地域の業者でしか守れない】
 建設業を取り巻く経営環境は厳しさを増すばかり。宮下地区建設業協同組合でも、組合企業の売上や従業員数はここ十数年で急激かつ大幅に減少した。こうした地域建設業者の体力の衰えにより、除雪などの維持管理業務にも大きな影響が出始める。

 2010年末、奥会津は一夜にして1・5bの豪雪に埋まった。倒木の影響で奥会津の主要国道は、長時間の通行止めになった。3日間の大停電も発生し、地域住民の健康と生命が根底から脅かされる深刻な事態となった。

 当社でも従業員に緊急非常招集を発令したが、実際に駆け付けて行動できた者は、その地域に現に住んでいる従業員だけだった。路線が通行止めでは、管外から参戦することはまったく不可能だったのである。

 その後、地域の建設業者の昼夜を分かたぬ決死の努力もあり、混乱は正月明けにようやく収拾した。そこには「結局は地域に住む者にしか地域は守れない」という、当然といえば当然の教訓が残された。

 地域を守る建設業者が倒産し、不在になるという深刻な事態は、地域によってはすでに現実のものとなっている。いまこそ、地域を守る建設業者を育成することに力点を置いた地域保全型の入札制度の確立が急務ではないだろうか。その一つの方策が、建設業者が相互に連携補完し、一体となって地域を守るための共同受注体制の確立・拡充である。

【一括共同受注で地域の安全・安心を】
 2009年4月。福島県は、道路や河川の維持補修・除雪など、住民生活に直結する業務について、地元の複数業者の組織に一括発注するモデル的な取り組みに乗り出した。

 発注に当たっては、透明性と公平性を確保するため、「公募型プロポーザル方式」を採用。地域保全を十分に果たすための厳しい条件も応募要件として設定した。

 一方で宮下地区建設業協同組合では、12社の組合員総意の元でプロポーザルに応募。その結果、同組合が福島県から年間の維持管理業務を一括受注した。現在は2年目の業務に携わっている。

 なお、その後こうした取り組みに宮下地区3町1村も関心を示し、実際に共同委託を実施する事例も現れた。

【新たな雇用、地域活性化にもつながる】
 共同受注の成果について、福島県土木部道路管理課では、「1社では困難なことも、共同組合であれば、業者間で相互補完し実施できる。この組織体制を維持するためには相応のロットが必要になるため、広範囲な維持管理業務を通年で委託した。新たな雇用も生み出され、地元業界の活性化にもつながった」と考えている。さらにこの宮下方式を「11年度まで3年間試行し、結果を検証した上で他地区への拡大も検討する」という。

【受注業者の変更で業務の質を向上】
 年末の豪雪の際、国道の大混乱に拍車を掛けた要因の一つが、受注業者の運転技量不足だった。宮下地区建設業協同組合では、急きょ、受注業者を変更して対応した。その結果、国道除雪の質が格段に向上し、住民からは感謝の声も届いた。

 このように受注業者の変更まで迅速に踏み込めるのも、共同受注だからこそ、である。従来の個別契約ではまず不可能だっただろう。業者間の力量や都合によって住民生活が脅かされるという事態を回避することができたのも、共同受注方式ならではのメリットといえる。

【共同受注の全国のモデル目指す】
 宮下方式に注目して、全国から視察者が集まっている。総論では賛成でも、各論や実施の具体策になると、業者間の利害がからむことなどから、いまのところ様子見のようである。今後、共同受注方式を全国に拡げ、地域を守っていくためにも「宮下方式で結果を残し、全国のモデルとなるよう頑張りたい」

企業プロフィール
【会社名】佐久間建設工業株式会社
【代表者名】代表取締役佐久間源一郎
【所在地】福島県大沼郡三島町大字早戸字湯の平687
【電話】0241(52)3111
【資本金】2000万円
【創業年】1919年5月
【社員数】35人
【URL】http://sub0000158161.ms.hmk-temp.com/index.html
【事業内容】総合建設業
【関連会社】渇怏津彩ノ里=農業部門▽ウッドショップ森の仕事舎=林業部門▽早戸温泉つるの湯企業組合=観光部門
【複業含む就業者数(パート含む)】60人

執筆者プロフィール

米田雅子+地方建設記者の会

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