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登記を極める フクダゼミナール
Lesson2 空き家の登記

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【空き家は登記もされない】
前回、不動産の所有権に関する登記は、所有権を取得した人が行うのが一般的であるというお話をしました。ところが最近問題となっている空き家に関しては所有者が変わっても登記が行われず放置される事が多いのです。所有者が空き家に興味がないから当然といえば当然なのですが、それだけではなく、空き家の取得の多くが相続によるものである事が関係しているのです。

【空き家の相続】
事例で考えて見ましょう。東北地方在住のAさんご夫妻の場合です。Aさんご夫妻の一人息子Cさんは東京で仕事を得、家庭も持ち、将来的にも故郷に帰るつもりがありません。やがてAさんご夫妻は年老い、施設に入り、そしてまずAさんがなくなり、続いて妻のBさんが亡くなりました。こうしてAさんご夫妻の住んでいた家は空き家となりました。ご両親が相次いで亡くなりCさんはその意思に関わりなく自動的に相続によって空き家の所有権を取得する事になりました(法定相続)。

ところがCさんは自分の名義に登記をせず放置しています。Cさんは自分の所有権を守る事ができない事になるのでしょうか?

【相続は登記不要】
通常、不動産の所有権を取得するとその権利を守るためには自分名義に登記する事が必要となります。しかし、相続によって取得した所有権を守るためには登記は必要ないのです。

その不動産は自分のものだと主張するXさんが現れてもCさんは登記しなくても自分が所有者である事をXさんに認めさせることができます。

これは、相続による権利の取得と売買による権利の取得とはその性質が異なるという考え方によるものです。もっともCさんの場合はそこまで考える事もなく単に放置しているにすぎないのですが・・・。

【登記しない事で周囲が迷惑】
しかしそれでは実家の周囲の方たちが困ってしまいます。空き家の場合、放置され老朽化し、倒壊の危険があったり、そこまで行かなくても雑草が生い茂って中が見えなかったり、火災の危険や良からぬやからが入り込んだり、ゴミ屋敷になり悪臭の発生源になったり等々、さまざまな問題を生じさせる危険性があります。

この様な場合に所有者と連絡を取ろうとしても所有者の変更が登記されていないと現在の所有者が誰なのかわからず、連絡も取れないという事になるのです。

【登記を促すインセンティブ】
そこで、登記を促すインセンティブとして相続登記にかかる登録免許税は売買の場合の5分の1に設定され(売買=2%、相続=0・4%)登記がしやすくされています。しかしそもそも不動産に興味のない相続人はわざわざ手間と費用をかけて登記手続きをする事は考えにくいのです。それはCさんの場合も同様です。こうして結局登記も放置されるという訳です。登記とは取引の安全と円滑をはかる制度である、と言いましたが、そこには限界があるという事なのです。

【売却するときは登記が必要】
ただし、Cさんが相続した不動産を売却したいと考えた時には手間と費用をかけてでも相続登記をする必要があります。所有者が変わってもそれを登記する義務はありませんが、いざ登記をする場合は所有者の変更の過程を忠実に反映しなければならないという登記制度上の原則があるからです。

つまり、ご両親からいったんCさんが相続し、そこからさらに売買によって所有者が変わったという途中経過も順次登記しなければならないのです。

しかしこの場合、相続登記をしてもすぐに売ってしまうのだからわざわざ登記をする必要はないのではないか、とCさんは考えるかも知れません。Cさん自身は登記による権利保護を受けないにも拘わらず法的義務のない登記を実質的に強制される事になるのですから、こう考えるのももっともな事です。

【「中間省略」可能?】
この様に所有権を取得してもすぐ売却する場合に税金を節約する手法として「中間省略登記」というものがあります。

次回はCさんが果たして中間省略登記によって登録免許税を節約する事が可能なのかどうかを検討しましょう。

執筆者プロフィール

フクダリーガルコントラクツ&サービシス(千代田区)代表 福田龍介

福田龍介
フクダリーガルコントラクツ&サービシス(千代田区)代表
早稲田大学法学部卒業。1989年司法書士登録。大手司法書士事務所勤務を経て2002年、フクダリーガル コントラクツ &サービシス(FLC&S) を設立、開業、数々の不動産トラブルを未然に防ぐ。05年から「中間省略登記問題」に取り組み、06年末の規制改革・民間開放推進会議の答申にも関与した。新・中間省略登記の第一人者。