登記を極める フクダゼミナール
Lesson5 中間省略登記という手法
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Xさんから不動産を買ったYさんがZさんに不動産を売却した場合、Yさんが登記を強制されないで済ますことができる「新・中間省略登記」という手法があります=図@=。
では、不動産を相続したCさんは「新・中間省略登記」によって登記を強制されないで済ませることができるのでしょうか=図A=。
【相続人Cは新・中間省略登記を活用できない】
結論から言うとCさんは登記をしないで済ませることはできません。Cさんは「新・中間省略登記」を使うことはできないのです。
空き家となっている実家をご両親から相続した一人息子のCさんは、相続によって自分に所有者が変わったという登記をしなくても法律上は問題がありません(登記を法的に強制されません)。
しかし、その空き家を売ってほしいという「Dさん」が現れ、Dさんに空き家を売却し所有者が変わった場合には、Dさんに所有者を変更する登記をする前提としてCさんに所有者を変更する登記(途中経過の登記)が事実上強制されます。
一見するとCさんとYさんの状況はよく似ています。それは、
◆不動産を相続または購入してすぐに(登記をしないうちに)売却するという点
◆自分名義への登記を必要としていないという点
―の2点です。
しかし両者には大きな違いがあります。
【相続の場合と売買の場合の相違点】
それは、Cさんの場合は既に所有権を取得してしまっていますが、Yさんはまだ所有権を取得していないという点です。
Cさんは被相続人(母親のBさん)が亡くなると同時に相続によって不動産の所有権を取得します。一方のYさんは売買契約を締結しただけで、まだ所有権は取得していません。
前回お話しした様に、「新・中間省略登記」は中間者に所有権を移転させないことによって流通税を発生させないという手法です。従って、既に中間者に所有権が移転してしまっている場合にはこの手法を使うことはできないのです。売買の場合、買い主は自分の意思で所有権を取得しない(所有権を自分以外の者に取得させる)ことができますから、この手法を活用できますが、相続(法定相続)の場合、相続人は自分の意思で所有権を取得しないことができないので、この手法を活用できないのです。
【売買でも新・中間省略登記を使えない場合】
Xさんから不動産を買ったYさんが既に所有権を取得してしまっている場合には、やはりこの手法は使えません。通常の売買契約では契約を締結しただけでは所有権を移転させることはありません。買い主の売買代金の支払いと引き換えに買い主に所有権を移転させるのが常です。
買い主Yさんが売買代金を支払い、引き換えに不動産の引き渡しと所有権の移転を受けた後は、中間省略登記を行う余地はなくなるのです。
これを「決済」と言います。
【売買以外でも新・中間省略登記を使える場合】
売買以外でも、不動産を取得する場合で当事者の意思で所有権の移転先を変更することができるケースであれば、新・中間省略登記を活用することができるのです。
贈与などの民法上の契約はもちろん、会社の合併や会社分割等の会社法上の行為の場合でも可能ですし、他にもさまざまな応用ができる可能性があります。
相続でも法定相続以外の場合(遺言、遺産分割、相続分譲渡等)は、所有権の移転先を決めることができますから、新・中間省略登記を活用できる余地があるようにも思えますが、これに関しては機会があれば検討致しましょう。
執筆者プロフィール

福田龍介
フクダリーガルコントラクツ&サービシス(千代田区)代表
早稲田大学法学部卒業。1989年司法書士登録。大手司法書士事務所勤務を経て2002年、フクダリーガル コントラクツ &サービシス(FLC&S) を設立、開業、数々の不動産トラブルを未然に防ぐ。05年から「中間省略登記問題」に取り組み、06年末の規制改革・民間開放推進会議の答申にも関与した。新・中間省略登記の第一人者。