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どうなる? 未加入対策後の建設業界改革
第8回 「偽装請負」のリスクはどこまで解消するか

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 「偽装請負」は建設業界において、長年解決をみない課題です。ただ、今回の社会保険未加入対策を機に、改善に向けた動きをとる元請企業等が出てきました。

 改めて偽装請負とは、「形式的には請負契約だが、実態は労働者派遣であるもの」を指します。そして請負と派遣との最大の違いは、派遣には「発注者」と「受託者の労働者」との間に指揮命令関係が有り、請負ではそれがあってはならないという点です。

 建設業における多くの請負関係では、元請企業等(発注者)による、下請企業(受託者)の労働者への直接の指揮命令が伴う実態にあるため、この偽装請負のリスクが常態化していると指摘されています。

 このような状況における問題解決にとって重要なのは、適正な請負であると主張できるだけの体制があるか、という客観的な事実です。

 まず基本となるのは、発注者たる元請企業等がその工事の進め方について、下請企業に対して指示することは当然必要ですが、それを受ける責任者が下請企業側に配されており、あくまでも具体的な指揮命令はこの責任者が行う形をとることです(図参照)。

 ただ、この責任者が指示の単なる伝達者に過ぎないと、実態は発注者が指示をしているに同じと判断されやすくなります。よって責任者は単なる年長者や先輩社員ではなく、主任技術者、職長資格等、権限を有すると判断するに足る人物であることが重要と言えます。またそれに加え、その職務に対して何らかの手当が支給されていると、その者が責任者であるという性質がより客観的に強化されるといえるでしょう。

 また、上記のような体制があったとしても、そもそも指示内容が、「細かな作業手順」「労働時間」「人員配置(人数等)」に及ぶような場合はリスクが高まります。

 それは、作業完了に必要な人員や作業時間は労働者の技能差により変化するはずであるのに、単に人数や労働時間を指定するような発注は、自ずと偽装請負の色合いが強いと判断されやすいからです。

 偽装請負は労働者派遣法や職業安定法違反となり、行政処分の対象となります。未加入対策の流れから、コンプライアンス重視の元請企業が増加していることから、偽装請負についての適正化を目指す企業も増えてきています。

 冒頭にも述べた通り、偽装請負はこの業界における長年の課題です。ただ今後はこの課題に、これまでにない改革の時期が訪れる可能性があります。よって、自社の現状にどれだけのリスクがあるのか、各社が見直すべき時期を迎えているのではないでしょうか。

執筆者プロフィール

特定社会保険労務士 社会保険労務士法人エール(横浜市) 加藤大輔

加藤大輔
特定社会保険労務士 社会保険労務士法人エール(横浜市)
社会保険労務士法人エール(横浜市)所属。特定社会保険労務士。建設企業向けのコンサルティングを幅広く手掛けてきた社会保険未加入問題の第一人者。関連する執筆やセミナー講師など多数。