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建設業での外国人材受入れを成功させる!
第9回 建設業における外国人受入れの拡大についてA

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 前回は外国人材の受入れ拡大の変遷と要件を述べましたが、今回は、特定技能における懸念点を説明させていただきます。

 今年4月に、新しい在留資格「特定技能」が創設され、特定技能1号は14分野、特定技能2号は2分野での受入れが可能となります(特定技能1号と2号の違いは前回のコラムをご参照ください)。建設業は特定技能1号・2号ともに受入対象分野ですが、この在留資格が建設業界の人手不足を即時解消できるかについては、4つの懸念があります。

 まず一点目として、この在留資格に複数の高いハードルが設けられている点です。技能実習とは異なり、特定技能の外国人は「即戦力」という扱いのため、一定以上の技能・日本語能力が必要となります(特定技能2号については実務経験も必要)。
 外国人技能実習生として3年間の技能実習を修了していれば試験の受検は不要(技能実習期間中の技能検定試験等の受検は必要です)ですが、そうでない場合は試験に受験し、合格することが条件です。母国から直接受入れるにしても、試験に合格した人材でなければいけません。おそらく試験合格を目指す学校が各国にできると思われますが、日本の高い安全基準を経験したことのない、少々の知識だけを蓄えている外国人が日本の建設現場で即戦力になりえるのか、という疑問もあります。
 また、特定技能1号では家族の滞在が認められないことも、長期で日本に在留するにあたりハードルとなります。技能実習(3〜5年間)プラス特定技能1号(5年間)の約8〜10年間、家族と過ごせないという環境で本当に外国人が日本に来てくれるのでしょうか。

 二点目の懸念は、賃金と転職に関するものです。技能実習と異なり、特定技能の外国人は「労働者」という扱いのため、転職に制限はありません(技能実習は原則として2号から3号に移行するタイミングのみ転職が可能)。特に外国人は居住する場所が固定されているわけではないので、お金を稼げるところに流れる傾向が生まれると想定されます。
 「特定技能外国人が大都市圏その他の特定の地域に過度に集中して就労することとならないようにするために必要な措置」として、「建設分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」(2018年12月25日公開)には「自治体における一元的な相談窓口の設置、ハローワークによる地域の就職支援等を着実に進める等の業種横断的な措置・方策に加え、国土交通省は、地方における人手不足の状況について、地域別の有効求人倍率や建設労働需給調査等により定期的な把握を行うとともに、本制度の趣旨や優良事例を全国的に周知し、必要な措置を講じること等により、各地域の事業者が必要な特定技能外国人を受け入れられるよう図っていく」と、全国の事業者が外国人を採用するようにできることのみ記載されており、肝心の外国人が都心部に集中しないための施策については明記されていません。

 三点目の懸念は、特定技能外国人を受入れられる職種に関するものです。前回のコラムでも述べたように、今回受入れが可能となる職種は型枠施工、左官、コンクリート圧送、トンネル推進工、建設機械施工、土工、屋根ふき、電気通信、鉄筋施工、鉄筋継手、内装仕上げ/表装の11職種です。その他には、2020年度以降の外壁仕上、PC、基礎工、ウェルポイント施工、標識・路面標示、のり面工、建築板金、電気工事、送電架線施工、溶接、ダクト、鉄骨、海洋土木工、建設塗装、防水、保温保冷、ウレタン断熱、造園、さく井、シャッター・ドア施工の20職種が2020年以降の導入を準備しており、建築大工、とび、運動施設、切断穿孔、冷凍空調、タイル張り、ガラス施工の7職種については検討中(受入開始時期未定)となっています。
 これらを見ると、建築・土木といった分野に偏っており、住宅メーカーでの受入れはなかなか難しい状況にあります。建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録義務も、住宅関係だとあまり必要性が見受けられないという声も出ています。また、建設分野の特定技能外国人の受入上限人数は4万人に設定されているため、現在の11職種で早い時期に上限に達してしまうと、現在準備中の職種ではそもそも受け入れられない可能性もあります。

 四点目の懸念は、採用・教育や支援体制に関するものです。今回の特定技能外国人の受入れにあたって、建設分野については、採用・教育を業界が共同設立する団体(一般社団法人)が一括しておこなうことになるようです。
 これは国交省が、技能実習制度における失踪などの問題は、技能実習生が借金をして来日していることが要因であり、その責任は監理団体にあると考えているためと言われています。もちろん、管理体制に不備がある監理団体が多いことも問題です。ただし、技能実習制度の問題の根本は、外国人本人が送出機関(海外派遣会社)に手数料を支払うモデルが容認されている点です。今回の特定技能外国人も、新団体が採用を一括しておこなうとしても、10〜20人ほどの従業員の新団体が外国で新団体が直接募集をすることは難しいため、送出機関との提携が必要なはずです。そうなると、外国人本人が手数料を支払う流れに変わりがないため、根本の問題が残ったままで、解決にはならないと考えられます。技能実習制度も含め、外国での募集の手数料を受入企業や国が負担をする形を早急に検討し、国レベルで交渉をおこなうことのほうが、優先順位は高いのではないでしょうか。

 このように、懸念が多い特定技能が今年4月から開始されますが、当社としては、適正な外国人の受入れができるよう、建設業のお客様を引き続きサポートして参ります。
 
 本連載はいったん今回で終了とさせていただきます。これまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。今後とも、何卒宜しくお願い申し上げます。

執筆者プロフィール

株式会社ワールディング 代表取締役 谷口正俊

谷口正俊
株式会社ワールディング 代表取締役
1973年イタリア・ローマ生まれ。早稲田大学商学部卒業後、(株)ベネッセコーポレーション入社。同社退社後、2000年7月「教育を通じてより良い世の中へ」と、教育関連企業(株)ウィル・シードを共同創業、代表取締役副社長就任。大手企業400社の人財育成支援及び、全国の小中学校に新しいタイプの体感型教育プログラムを提供。同社副社長を退任後、2006年6月、(株)アクティブリッジの設立に参加。7年に亘るベトナム事業展開の後、2013年3月、(株)ワールディングを設立。日系企業のベトナム進出支援、ベトナム人材採用・育成事業を展開中。日本とベトナムを往復する日々を送っている。