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Catch-up 増加する偽装一人親方

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 国土交通省が進めてきた建設業の社会保険加入対策により、企業単位の加入率は2020年10月時点で98・6%になった。対策前の11年10月時点と比べると14・5ポイントの上昇だ。その一方で、社会保険料の削減を意図し、実態は社員である技能者を一人親方にする企業が特に都市部で増えているという。偽装一人親方≠ニ呼ばれるこうした技能者とはどのような存在であり、何が問題なのか―。
 建設業の社会保険加入対策は、技能者の雇用環境の改善と不良不適格業者の排除を目的として、12年11月にスタートした。加入率の上昇に伴い、20年10月に施行された改正建設業法では、建設業許可・更新時に社会保険(雇用保険、健康保険、厚生年金)に企業単位で加入することを義務化。
 これにより、加入対策の目標である許可業者の加入率100%は、5年更新の建設業許可が一巡する25年9月末に達成されることになる。
 他産業よりも遅れていた建設業の社会保険加入が飛躍的に進んだ一方で、給与の総支給額の約15%(年収400万円で60万円)とされる社会保険料の事業主負担を嫌い、社員を一人親方にするケースが増えている。社会保険料の個人負担による見た目≠フ減収を嫌う技能者本人が一人親方を選択することもあるという。
 社会保険加入対策が区切りを迎えた今、雇用形態の実態がある技能者を一人親方として処遇する、こうした行為が偽装一人親方≠ニして問題視されている。
 一人親方が事業主負担のない国民健康保険や国民年金に加入するよりも、事業主負担のある厚生年金や協会けんぽに加入できる社員のほうが補償は手厚く、個人負担は軽い。技能者の処遇を改善するための社会保険加入対策が、むしろ処遇の低下を招く事態が起きている。
 明らかに経験の少ない10〜20代の一人親方が現場に従事しているという声もある。技能者を社員化して社会保険に加入させている企業と偽装一人親方を抱える企業との間に、競争上の不公平感が生まれる恐れがある。
 国土交通省は、昨年6月に偽装一人親方の抑制策を検討する有識者会議を設置。この会議がまとめた提言を受けて検討されているのが、偽装一人親方を抱えている企業の現場入場制限だ。
 国交省はまず、現場入場制限の前提として、適正な一人親方像を明確化。一人親方には本来、請け負った仕事を自らの責任で完成させる技術力があるはずだとして、適正な一人親方には「実務経験年数10年程度以上」「職長クラスや建設キャリアアップシステムのレベル3相当の実力」が必要だと定義。これらの条件に合わない一人親方を抱える企業を下請けに選ばないよう、『社会保険の加入に関する下請け指導ガイドライン』を改訂して元請けに指導を求める考えだ。
 一方、実際に現場で働く偽装一人親方の入場を制限した場合の現場の施工体制を懸念する声も業界内では根強い。短期間で集中的に人手が必要な内装工や型枠工などはなおさらだ。
 とは言え、社会保険加入を逃れるために技能者を一人親方化することは、個人事業主として適正に現場で働く一人親方を含め、技能者全体の処遇を低下させることにもつながりかねない。
 偽装一人親方問題は、さらにその先にある課題を建設業につきつけている。国交省は、「重層下請構造の改善や社員化といった、技能者の処遇改善のために避けて通れないテーマと向き合う時が来たのではないか」(建設市場整備課)とみている。
『Catch-up』では、建設業に関わるトピックスを分かりやすく解説していきます。