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「中小建設業の事業再生の考え方・進め方」 第8回(最終回) 建設産業における事業再生のあした

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とうとう最終回を迎えることになりました。
とてもおおざっぱに、「事業再生って、こんな感じ」ということを少しでもわかっていただけるよう進めてきました。最終回となる今回は事業再生、とりわけ建設産業の事案を取り扱う中で、日々感じていることを述べさせていただき、まとめにしたいと思います。

前号では、オーバーストアの建設市場にあって、むやみに個別事業を再生させることはマクロ的には矛盾が生じること。また、「再生」のツールが「再編」のツールと化している傾向にあることについて、若干触れました。

実は、このことこそが、再生の現場に立つ者としてのジレンマであり、建設産業における事業再生の「あした」を占うものとなっています。

たとえば、日々の再生案件。
コンサルとして依頼を受ければ、当然その依頼者の意向に沿って、当該依頼者の利益の極大化を目指します。つまり、「何が何でも依頼者のために事業を残す」ことを最上位の使命として仕事をします。
そのためには、取引銀行の債務を事実上圧縮してもらうこともあります。また民事再生などの法的整理になれば、一般業者さえも犠牲にし、事業を残す努力をします。

しかし、そんな「手品のような技術」を用いて再生に向かう会社がある一方で、日々歯を食いしばって地道な努力を続ける会社が多数あります。そういった会社にとって、借金が減って身軽になったライバルの存在はとてつもない脅威になります。
文字通りの「生き残り競争」を続けている中で、一部の会社だけが特殊な手法で元気になってしまうことは、決してフェアではありません。さらにそのことで、「がんばってきた会社」が倒産に追い込まれてしまっては、客観的には忍びない限りです。

ですので、マクロ的にいえば、「本当に再生に向かわせるもの」と「淘汰させるべきもの」の選別なくして、むやみに再生手法を用いるべきでないのです。

しかし、そんな「特殊技術」を用い、不公平感のある再生手続であっても、マクロ的に重要な意義もあります。それは「仕掛工事を放置しない」ということです。

工事を請け負っている建設会社が単純に倒産に追い込まれれば、仕掛中の工事はみんなストップしてしまいます。工事が止まれば、施主に対する経済損失が大きく、場合によっては工事の進捗を上回って工事代金の部分払いをしていることもあります。
施主がそれなりの企業であればまだしも、一般個人であったらただ事ではありません。なにしろ「一生に一度」の大きな買い物をしたと思ったら、モノは出来ない、さらに追い銭までかかってくる、という事態に追い込まれることになるのですから。

建設産業全体の将来を考えれば、「殺し合い」の市場を緩和させ、適度にけん制し合える程度の競争状態に早く到達させるべきです。一方で、施主への損害を回避しながら、業者の統廃合を加速させる。しかも「いきなり倒産」させず、ゆるやかに淘汰を進めることが重要です。

そのために、事業再生で用いる「特殊技術」を駆使して、「仕掛工事を放置させず」「経営者の名誉や生活を守り」「波風少なく業者数を減らしていく」ことこそが理想となるのです。

私はあえてそのことを「清算型私的整理」と称し、その推進の意義をことあるごとに発してきましたが、やっとここにきて、その意義を共有できる環境が整いつつある感触を得てきています。

「再生技術の応用活用」を通じ、建設産業が健全なマーケット形成に向けて調整が進み、真に一般市民の支持を得られることこそが、本当の「建設業再生」でないかと思うところです。
(おわり)

大熊康丈(行政書士/中小企業診断士)
http://www.admin.vc/

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中小企業診断士 大熊康丈