加熱する高齢者住宅市場 「介護」と向き合う覚悟を
2013/3/18
印刷 | |
日々の暮らしに何らかの支援が必要な高齢者にとって、「安心して暮らすことのできる住まい空間の確保」は何よりも切実だ。だが、国土交通省の統計によると、全高齢者数に対する介護施設と高齢者住宅の定員数の割合は4・4%にとどまり、諸外国と比べても低い水準にある。少子化・核家族化が進展する中で、より良質な民間高齢者住宅が供給される市場の整備に、国は待ったなしで取り組まなければならない。
高齢者住宅の整備促進に向け、11年10月に改正された高齢者居住安定確保法に基づき、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」が創設されている。この事業には、従前の高齢者専用賃貸住宅(高専賃)や高齢者向け優良賃貸住宅などを統合し、サービスの充実・明確化を図る狙いがある。医療法人や介護系企業だけでなく、他業種の企業も事業者として参入が可能だ。
助成制度も充実している。バリアフリーであることや床面積25平方b以上などの設備基準をクリアし、安否確認などのサービス要員の常駐といった要件を満たした施設には、新設・改修工事費に対し1戸当たり100万円を上限とした補助金が給付される。税制優遇措置もあり、金融機関から有利な条件で融資を受けることができるという。
ただ、たとえ事業者に高度な介護のノウハウがなくても参入できてしまう点が、「サ高住」に関心を向ける理由の一つになっているという側面もある。
制度名にある「サービス付き」とは、生活面で不安を感じる高齢者への相談や安否確認の実施を意味する。原則として、「サ高住」の入居者は介護サービスを受ける際、施設外部の訪問介護事業者と契約。サービス利用分ごとに課金方式で支払う。介護付き有料老人ホームなどのサービス包括型の施設と比べ、「サ高住」は利用分に応じて介護報酬が発生するため、財政負担も少ない。国は20年までに約60万戸の整備を目指す方針だ。
心配もある。補助金目当ての「丸投げ企業」が乱立すれば、事業者の倒産・撤退で転居を余儀なくされ、「介護難民」が生まれる事態となってしまう。他業種から参入する企業は、訪問介護事業の併設など実質的に包括型と遜色ないサービスを提供できる体制を整えるとともに、介護事業のノウハウの蓄積に努める必要があるだろう。単身者が「サ高住」に移ることになれば、従前の住まいは空き家となる。不動産業などが強みとする、住み替え支援や相談体制の充実も欠かせない。
建設・不動産業の中にも自らのビジネスモデルやツールを、高齢者住宅ビジネスに結び付けようと鼻息を荒くしている企業が少なくない。
しかし、高齢者は単なる「器」を求めているのではない。彼らは心が通ったサービスであり、安心感を求めているのだ。高齢者住宅市場に参入する企業は「介護」の現実に本気になって向き合う覚悟を持つべきだ。
関連記事
- 土木の有効求人倍率 11年連続で上昇 (5/2)
- 水分野のデジタル活用 職員提案で働き方改善 (5/2)
- PFI導入を伴走支援 官民連携で公共機能強化 (5/2)
- 全国安全週間 ポスターに中川絵美里さん (5/2)
- 会社に報告した残業時間 実態と「乖離」は2割 (5/2)
- 日建連調査 中堅技術者の減少顕著 (5/2)
- 耐火木質ビル開業 北海道の産業と若者を支援 (5/1)
- 総務省 空き家は過去最多の899万戸 (5/1)
- WLB推進企業への加点 国の工事の18・0%で (5/1)
- 国交省人事(5月1日付) (5/1)
特集コーナー
このコーナーでは、入札情報関連の話題や建設業界注目の情報、工事ニュースなどを取り上げます。