安全対策に終わりはない
2013/7/8
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厚生労働省の地方労働局による建設現場の安全衛生パトロールに同行した。全国安全週間(7月1〜7日)の一環として実施したもので、来春の完成を目指し1000人以上が従事する大規模建築工事での安全対策を一緒に見て回った。そこでは労働災害の防止に向け、実践的かつ先進的な取り組みが展開されていた。
その最たるものは現場内に設けた訓練ヤード。作業員たちは「よし!」の発声とともに、作業足場台が適切な状態かどうかや、仮設足場に二丁掛安全帯のフックを掛けたかどうかをチェックしながら、上り下りを繰り返していた。訓練を終えなければ実作業に就けない決まりで、慣れによる不安全行動を防ぐため、一定期間を置いて何度も受ける必要がある。元請けゼネコンの社員も例外ではないという。
注意喚起のための「声の掛け合い」とともに、元請けゼネコンの社員は一人ずつタブレットPC端末を携行。赴いた先で作業内容に応じた労働安全衛生規則などを確認できるよう配慮している。フェースツーフェース(アナログ)とICT(デジタル)を連携させた好事例とも言えるだろう。
夏本番を迎えWBGT(暑さ指数)は1日に4回計測して掲示。値がレベル4以上になれば熱中症に注意するよう全職長の携帯電話に一斉メールを送る。売店には経口補水液や冷却枕を蓄えているだけでなく、かき氷のブースまで設けている。
整理・整頓・清掃・清潔のいわゆる「4S」の徹底は言うまでもない。
対策の充実ぶりには訳がある。元請けゼネコンは2013年度の店社目標に「死亡災害ゼロ」を掲げながらも、既に死亡災害を出していたのだ。仲間の辛く悲しい出来事を厳しく受け止め、同じ過ちを二度と起こさぬよう全員一丸で労災防止に取り組む姿勢が、この大規模建築工事からも強く感じられた。
建設業の労災の発生状況は、東日本大震災が起こった11年から減少傾向に陰りが見え出した。ことし5月までの状況は死傷災害が5353人(前年比63人減)、死亡災害が98人(28人減)と、いまのところ前年を下回っている。
とはいえ慢性的な技能労働者不足、15カ月予算に基づく公共工事の大量発注、インフラの老朽化対策の加速などが相まって、労災の発生に拍車が掛かる可能性は高まりつつある。
こうした状況にある建設業は、安全最優先の旗印を決して降ろしてはならない。現場の危険因子を取り除き、安全な作業環境を確保して着実に労災を減らすことこそが、若手の入職・定着を促し、技術・技能の継承につなげるための大前提だからだ。
前出の大規模建築工事のレベルまで取り組めなくても、現場内の段差を全て養生したり、スポーツドリンクを配るような地道な対策の積み重ねで労災の芽を摘むことはできる。
全国安全週間は終わった。だが、安全対策に終わりはない。「高めよう 一人ひとりの安全意識 みんなの力でゼロ災害」のスローガンを胸に、建設業の一層の奮起を求めたい。
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