懸念される技術者・技能者不足
2013/8/31
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国土交通省の2014年度概算要求のうち公共事業関係費は前年度比17%増の5兆1986億円となった。「真に必要な」公共事業予算の確保を図り、東日本大震災からの復興を加速させるとしている。政権交代の直後に組んだ12年度補正予算、続く13年度当初予算編成の中で公共事業費の削減傾向に歯止めが掛かり、14年度もこの傾向が続くと見られている。しかし、建設業界はこうした状況を享受しているのではなく、むしろ戸惑っているようにもみえる。その大きな要因が「技術者・技能者不足」だ。
長期にわたる公共事業費の抑制、景気低迷によって建設業は疲弊した。人材の育成もままならず、技術者の引退や転職を防ぐことができなかった。そこに降って湧いたように生まれてきた東日本大震災の復興・復旧需要。当然、この間に業界が失った技術者・技能者を急に手当てすることなど、できるはずもなかった。
甚大な被害を被った岩手、宮城、福島の3県が12年度に発注した建設工事のうち、2割弱の案件は入札が不調だった。震災発生直後の11年度よりも増して、さらに復興・復旧工事の執行が難しい状況になっている。3県の中で最大の都市である仙台市でも「入札不調等発生率」が34%に上るという。入札不調の約74%が3000万円未満の小額工事に集中しているが、建設業者の技術者・技能者不足と決して無関係ではない。
被災地の復旧・復興は緒に就いたばかり。本格的な復旧はこれからだ。これまで以上に技術者・技能者不足が進み、この傾向が被災地以外に波及することは必至だ。20年夏季五輪の東京開催を目指す東京都では、水道施設工事などで参加希望がないために入札中止となるケースが増えており、決定後の対応が早くも憂慮される。
技術者不足は民間企業だけではなく、官庁でも深刻だ。全国建設業協会が、地方協会のある自治体における技術者の数を調査したところ、1993〜96年度に13万人超いた技術者が、10年度には約10万人に減っているという。
インフラの点検にしても技術者のいない自治体は、点検しようにもどこを見て、どう判断していいのか分からない。現場に足を運んだとしても肝心な箇所のチェックができずにリスクを見落としてしまうことになりかねない。実際に「安全」と判断されたはずの橋梁で異常が発見されるケースも相次いでいる。特に小規模な自治体はインフラの安全を守る人も、おカネも、そして技術も間違いなく不足している。
公共事業の復活が、新たな危機につながりかねない建設業。技術・技能の担い手が人なら、経営の持続を左右するのも人。最後となるかもしれない産業再生のチャンスを、是が非でも生かさなければならない。
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