「全中建調査にみる『歩切り』」 実態の解明、是正が必要だ
2013/10/26
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いわゆる「歩切り」を発注者がやっているようだ。全国中小建設業協会(全中建)が会員を対象に行ったアンケートによれば、市町村が「歩切りをしていると思う」という回答が51%に上った。国の機関でも9%が、都道府県で25%が、「歩切りをしていると思う」という回答だった。
「歩切り」とは、資料などを基に計算した工事費や経費を、何の根拠もなく割り引いて予定価格を算出することだ。全中建のアンケート調査結果は、あくまで受注者側の推測、主観によるものであり、具体的な「歩切り」の割合までは言及していないが、もしもこれが実態だとすれば問題だ。
国土交通省は現在、次世代の建設業を担う若い人材を確保・育成していくため、業界とともに労働者の待遇改善に取り組んでいる。社会保険への加入を促進し、公共工事設計労務単価の大幅な引き上げと適切な労務賃金を確保しようとしている。
実際、設計労務単価はことし4月の改正で前年度と比べ全国平均15・1%と大幅に引き上げられた。建設業者に対して太田昭宏国土交通大臣は、労務単価の引き上げ分が適切に現場労働者に支払われるよう取り組むことを、各建設業団体に強く要請している。
先の全中建のアンケート調査によれば、市町村も「引き上げた単価で積算している」と74%が回答しており、国土交通省の指導に従い、市町村は単価の引き上げは行っているようだ。だが、せっかく労務単価を引き上げても、発注段階で「歩切り」していては、単価引き上げ効果が下請け企業、現場の技能労働者にまで行き渡らない。単価引き上げ分を上乗せして払いたくても払えないということになる。
歩切りされても、元請けの建設会社は自らの利益を確保して、下請けに出せば、恩恵を受けられそうに思うが、そう簡単ではない。工事発注量が増加してきたことで下請け側も強気に出てきているため、単価が良くなければ請け負ってもらえず、結局、元請けの利益になっていないのが現状だという。
地方の中小建設業は、「地元の市は歩切りがひどく工事をしても利益がほとんど残らない」と話す。ある自治体の建築工事では、自治体が積算に準用している国の基準と独自に入手した資料などを使い工事費を計算し、入札後に公表された予定価格と比較すると、歩切りの割合はおよそ20%になったそうだ。
政府はデフレ脱却を目指しているが、「歩切り」はそれに逆行する行為。財政難が「歩切り」に向かわせるのだろうが、それは負の連鎖の元凶だ。重層下請け構造など解決すべき問題は多いが、まずは「歩切り」の実態を一歩踏み込んで解明し、是正していかなければならない。
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