標準見積書の活用促進
2013/12/2
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「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法案」が11月26日に衆院で可決し、参院での審議が始まった。この臨時国会で成立すれば高齢化した社会インフラに対する「脆弱(ぜいじゃく)性の評価」(総点検)を行った上で、国は「国土強靭化基本計画」、都道府県や市町村は「国土強靭化地域計画」を定める。国や地方自治体はこれらの計画のもとに、社会インフラの老朽化対策を継続的に実施することになる。建設業界が待望する「平準化し、切れ目ない」入札執行の前提がやっと整いそうだ。
ただ「仕事はあっても人手がない」状況がすぐに好転するとは考えにくい。建設産業の就業者数は、ピークだった1997年と比べ27%減少し503万人となった。このまま推移すると、2025年までにさらに4割減り240万人になるという試算もある。国交省が行った専門工事業者への調査では、建設業への入職を避ける理由の第一は「収入の低さ」であり、これに「社会保険等未整備」を加えると全体の73%に及ぶ。
厚生労働省によると、2009年度に建設業に就労した24歳以下の人数は約5万人で、92年度の5分の1の水準まで減少した。そして、就職後3年以内の離職率は製造業の約2倍に上るという。離職する原因の第一はやはり「収入の低さ」で、「社会保険等未整備」を加えると84%に達する。12年度の建設業就労男性(職人)の平均年間賃金は約390万円で、全産業の平均と比べ26%も下回っている。
このような状況を打開しようと国が進めている社会保険加入促進策のうち、法定福利費を内訳明示した「標準見積書」の活用がなかなか進んでいない。国土交通省が11月26日に発表した中間集計では、未提出の下請けが69%に上り認知度の低さが露見した。東京鉄筋業協同組合が11月1日付でまとめた「鉄筋工事標準見積書」の会員アンケートでは、標準見積書を使って見積書を提出したのは、全見積提出数の52%にとどまった。
標準見積書の提出を尻込みしている要因の一つは、重層下請という生産システムにあるといえないだろうか。いつのまにか「仕事は元請けからもらう」ことが恒常化し、そのことに疑問を抱かなくなってしまった人もいる。いまだにそこに安住し続けられると思っている人たちがいるとしたら問題だろう。
上下の関係は片務性を生み、フラットな関係は双務性を育む。まずは意識だけでも重層下請≠ゥら水平対等≠ノシフトすべきだ。仕事は「誰かからもらう」ものではなく「共に成し遂げる」もののはず。そうでなければ誇りも情熱も傾けられない。標準見積書の活用による社会保険加入促進の取り組みを、日本の建設生産システムの新しい方向性を考える機会にしたい。
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