建滴 建築物の設計・監理の適正化 建築3会の提案を生かそう
2014/3/3
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ここ数年、消費者と建築士事務所などとの間で発生する建築紛争の訴訟件数が増加傾向にある。最高裁の報告書によると、全国の新受件数は2011年から2200〜2500件で推移。このうち「設計・工事監理」に瑕疵(かし)があると事実認定された事案は、約25%を占める。訴訟の平均審理期間は、瑕疵の有無が問われた建築設計分野で29・5カ月となり、施工分野(24・9カ月)と比べて長期化している。当事者に大きな精神的・経済的負担を強いる建築紛争を減らすための取り組みを、業界は早急に考えなければならない。
ここに、建築紛争の長期化を裏付けるデータがある。東京地裁で約54%、大阪地裁では約40%の事案で契約書が存在せず、その事案の大半は設計・監理業務が占めているという。権利関係を確定する資料が不十分であり、契約内容の文書化が必ずしも定着していない状況が、紛争を複雑化させている。
このような業務契約の不備など、建築設計界を取り巻く諸問題を解消しようと、日本建築士事務所協会連合会、日本建築士会連合会、日本建築家協会(JIA)の建築3会がアクションを起こした。建築士法の改正による「建築物の設計・工事監理の業の適正化および建築主への情報開示の充実」について、共同で提案をまとめた。
提案では、「口約束」による契約慣行を問題視し、書面による契約の義務化を強く訴えている。このほか、▽無登録業務の禁止の実効化▽一括再委託の禁止▽契約当事者の責務の明確化―など11項目を盛り込んでいる。今後、自民党建築設計議員連盟の中で改正案の中身を検討し、議員立法での法制化を目指すという。
そもそも現行法では、建築士事務所と施主との間で重要事項説明と書面交付(契約締結後)は義務化されている。ところが、合意内容を証明した書面での契約は義務化されていない。そのため、訴訟では「言った」「言わない」の押し問答による、出口のない争いに陥るケースが少なくない。
法改正には、憂慮すべき点が全くないわけでなない。長年の商慣習に基づき、住宅建築などを手掛けてきた中小規模の工務店は、恐らく混乱するだろう。「施主の代理人」として建築士事務所に設計・監理業務を委託し、自らは建築工事を請け負うという、従来のビジネスモデルの継続が困難になる。契約書の統一化・簡素化による負担軽減、移行への経過措置期間の十分な確保など、混乱を最小限に抑える方策も必要だ。
共同提案を作成する過程で、これまで「3極構造」と揶揄(やゆ)されてきた建築3会が歩調を合わせたことの意義は大きい。お互いの意見を擦り合わせる上で、協議が難航する局面もあったようだが、建築設計界全体で問題解消の糸口を見つけようという大局的な取り組みに、敬意を表したい。
だからこそ、3会が同じベクトルを向けて行動しているこの機を、絶対に逃してはならない。安全・安心で良質な建築物を整備できる環境を整えることは、建築設計・工事監理業に携わる人々に強い自信と誇りを与える。建築に携わるもの全てが法改正の内容に関心を持ち、法制化の動向を注視するべきだ。
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