これからが“正念場” 緊急輸送路沿道の耐震化
2014/8/18
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東京都が進めている緊急輸送道路沿道建築物の耐震診断(実施)率が約8割に達した。補強が必要と判断された建物の耐震工事も増えつつあり、都や区市町村による支援策に加え、建設業をはじめとした関係団体が協力してきた効果が表れ始めたといえそうだ。
都は2011年度、敷地が特定緊急輸送道路に接し、旧耐震基準で建てられた建築物約5000件の耐震診断を義務付ける「緊急輸送道路沿道建築物の耐震化を推進する条例」を施行。その後診断を受けた建物は3125件となり、既に耐震化を行ったり診断を完了していた建物と合わせた耐震診断率は14年6月末までに約8割に達した。
診断の結果を踏まえ設計に着手した建物も同様に増加し、14年度の122件を含め476件となった。改修工事を実施した建物についても計272件となっている。
だが、条例で義務付けられ、費用を都と国が負担しているにもかかわらず、依然として約1000件の建物では耐震診断がなされていない。都は耐震診断を受けた建物のうち補強が必要と判断された建物の数こそ公表していないが、その多くで何らかの対策が必要だとみられている。耐震改修促進法の改正により、沿道建築物の耐震診断結果の報告は法で義務付けられた。建物所有者にどのように対策を促すのか。「安全・安心の確保」に向けた取り組みはこれからが正念場だ。
耐震化を進める上で最大のネックとなるのは費用だ。法改正で国の支援も拡充されているものの、設計の助成制度を用意していない区市町村では建物所有者が「12分の7」を負担しなければならない。改修工事に当たっては、区市町村の助成制度があっても延床面積5000平方b以下の部分で「10分の1」、5000平方b超の部分で「20分の9」のコスト負担がある。工事中そして完成後にテナントが退去しないか、補償も含めた不安が拭えないことも耐震化を進められない要因となっている。
資金面の不安を少しでも解消するには、区市町村も含めた助成制度のさらなる拡充が必要だろう。個人の資産に税金を投入することに否定的な意見は少なくないが、緊急輸送道路沿道にある建築物が倒壊した場合の影響は極めて深刻だ。耐震化の「公共性」をもっと広く都民に知ってもらわなければならない。
都は条例の施行後、都建築士事務所協会や日本建築構造技術者協会、東京建設業協会、都中小建設業協会などと協定を締結。地域に精通した各団体がそれぞれ相談窓口を設置し、建物所有者らの相談に応じる体制を整えてきた。今後は建物所有者らの実情に応じたきめ細かな相談体制を継続しつつ、耐震化の専門家集団としてコストや工期を抑えられる技術の開発、設計や施工の提案といった積極的な取り組みを進める必要があるだろう。
「世界一安全・安心な都市 東京」の実現に向け、行政、そして関係するさまざまな業界の連携をこれまで以上に強化し、実効性のある防災対策を講じることが求められている。
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