危険の除去にも発注者責任
2014/8/25
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いま適切なインフラの維持管理・更新を実現するための仕組みづくりが国土交通省を中心として、多面的かつ精力的に進められている。「現場の数だけ異なる顔を持つ」と言われるほど、多種多様な維持管理の現場で、死傷災害を発生させない安全衛生の仕組みづくりもまた、いまから取り組むべき課題の一つではないか。
長年にわたって使用され、老朽化が進行しているインフラは、その数が膨大であることもさることながら、個別性が強い維持管理は、仕様の策定や積算基準を設定することすら容易ではない。
ましてや維持管理はインフラの現況把握や施工の実態を踏まえた多角的な検討が不可欠であるだけに、かえって「技術的な視点」や「経済合理性」あるいは「受発注の在り方」などの視点からだけの検討に陥りやすい。
今後、維持管理の分野でもICT(情報通信技術)やインフラ用ロボットの開発・導入が進むとの期待もあるが、あくまで維持管理の担い手となるのは人。施工の段階での危険性にのみ着眼するのではなく、調査の段階から業務や作業に従事する人たちの安全を守らなければならないし、発注者には、その責任がある。
維持管理における発注者責任を考える上で、一つのケーススタディともいえる通知がことし5月30日、厚生労働省安全衛生部から出されている。「鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について」と題する通知がそれだ。
この通知自体は、クロムや鉛などを含有している塗料が塗布された「橋梁等建設物」の剥離やかき落としを行う際に、鉛中毒予防規則などの関係法令を順守し、適切なばく露防止対策を講じるよう求めたものだ。特に目を引くのは、厚労省が事業者に粉じん飛散・ばく露防止措置を取ることを求めただけでなく、当該作業の発注者に対して「塗料中の有害物の調査やばく露防止対策について必要な経費等の配慮を行うこと」を求めた点だ。
労働安全衛生法第28条の2は、事業者が建設物や設備や原材料、粉じんなどに起因する危険性・有害性を調査し、その結果に基づいて「労働者の危険や健康障害を防止するため必要な措置を講じるよう努めなければならない」と規定している。
ここでいう事業者を「元方事業者」のことと置き換えて、元方事業者である元請け業者や、下請け業者の自助努力を求めるだけなら話は簡単だが、事はそう単純な話ではない。例えば、鋼橋の場合、かつて橋の塗膜に使用された塩化ゴム系塗料の一部に有害なPCB(ポリ塩化ビフェニル)を含有していた時期があることが分かっている。もし、事前調査が不十分で、ずさんな工事が行われるようなことがあれば、作業従事者や周辺環境にいる人がばく露し、健康被害を受けかねない。
この国が、これから維持管理していくべきインフラは実に多種多様だ。維持管理の安全衛生は元方事業者だけで成せるものではない。維持管理の現場に潜む危険因子に気付き、これを事前に取り除くこと、これもまた自らの責任の一つだということを発注者には自覚してもらいたい。
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