建滴 技能実習制度の見直し 「共に働く仲間」との意識を
2023/12/25
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外国人技能実習制度を発展的に解消し、新たな制度を整備するよう、政府の有識者会議が提言をまとめた。新制度では、建設業などの人材確保策という位置付けが明確化される。だが、円安もあって就労先としての日本の魅力には陰りも見える。制度見直しを機に、外国人に選ばれる受け入れ環境を改めて考えなくてはならない。
制度見直しの契機となったのは、劣悪な受け入れ環境の存在や、悪質なブローカーに対する国内外からの批判だ。2022年に建設業関係で失踪した技能実習生は4717人であり、全失踪者の半数以上を占める。安全基準違反や割増賃金の未払いを労働基準監督署に認定された事業場数も、建設業は機械・金属業に次いで多い。重く受け止めるべき現実だ。
有識者会議で議論の焦点となったのが、受け入れ先を変更する「転籍」の扱いだ。現行制度では原則、就労者本人の意向による転籍は認められておらず、これが外国人の人権侵害を招くとされた。新制度では要件を緩和し、同じ機関での1年超の就労や、一定以上の日本語能力などを満たせば転籍できるようにする方向だ。
地方の、特に中小事業者からは、転籍の緩和が都市部への人材流出を招くとの懸念も聞かれる。人材確保という性格を明確化する以上、こうした声にも応える必要がある。
転籍元の企業が受け入れや教育訓練に要した費用を、転籍先との間でどのように案分するかも難題だ。企業の人材育成に対する意欲を削ぐような制度設計になってはならない。
外国人材の獲得競争は国際的に激化している。韓国では、非専門的分野の外国人労働者の平均賃金が日本を上回る水準だという。円安傾向も続く中で、外国人就労者の処遇改善は大きな課題だ。
とはいえ、賃上げだけを考えればいいというものでもない。技能実習生は給与だけを重視しているわけではなく、「外国人と日本人との待遇の差を敏感に感じている」とのヒアリング結果もある。文化的な側面や接し方も含め、受け入れ体制を整える必要がある。
新制度は、特定技能制度への入り口としての性格を強める。在留資格「特定技能2号」は在留期間の更新回数に上限がなく、永住への道も開ける。外国人が職長や、さらには管理職になれるキャリアステップを検討する建設会社も出てきている。
長く安定して働いてもらうには、円滑なコミュニケーションが欠かせない。有識者会議は、日本語教育への支援を手厚くする必要性を指摘した。国は制度見直しに向け、対応を急ぐべきだ。
多くの外国人就労者は受け入れ機関の寮や、借り上げ宿舎で暮らす。賃料が折り合わない他、生活文化の差異などへの懸念から、受け入れる賃貸住宅が少ないという問題もある。国とともに、自治体も外国人の受け入れ環境整備に注力しなくてはならない。
人口減少に伴い、これから長期にわたって人手不足が続くことは避けがたい。とはいえ、短期的な人手不足を補うためだけに外国人を受け入れるような姿勢は、通用しなくなるのではないか。将来にわたって共に働く仲間として受け入れる道筋を、国と自治体、建設業界が連携して考えるときだ。
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