――まずは、道路の最も基本的な機能である物流について聞きたい。
「端的な例を一つ挙げると、こういう風になる。『尾張北部の物流拠点と名古屋港の間を走るトラックが、これまでの1日2往復から、1日3往復できるようになる』」
「愛知県北部には周辺の製造業を支える物流拠点が集積している。そこで生産された製品は名古屋港を介して海外に輸出されていく。名古屋西JCTと、名古屋港に直結する飛島JCTが高速道路でつながることで、トラック輸送が一気に効率化される」
「この話は、愛知県小牧市と飛島ふ頭間で1日80〜100便のコンテナを輸送する企業へのヒアリングで聞いたものだ。物流業界ではトラックのドライバー不足が深刻になっており、道路交通の効率化がこうした状況の改善にもつながると期待されている」
――物流上の効果は、沿線だけにとどまらない。
「名古屋西〜飛島間が開通すれば、名古屋市の西側を通り、愛知県北部と名古屋港を結ぶ交通軸を形成する。名古屋西JCTより北側、尾張北部の物流拠点や、その周辺にある生産拠点にまで影響するのでは」
「いったん高速道路に入れば信号につかまらず、渋滞や事故情報もすぐに入ってくる。環状ネットワークが構成されていれば、迂回(うかい)路を探せる。物流の改善とは、移動時間の短縮だけを意味するわけではない。移動時間を想定した範囲に収められるという、定時性も重要な要素だ」
沿線を超えて広がるメリット
〜名古屋環状2号線(名古屋西〜飛島)のストック効果〜
――物流のもう一方の拠点である、名古屋港飛島ふ頭とも直結する。
「船舶はいつ出航するかが決まっていて、逃したら次の船を待たなければならない。トラック輸送では、いつ到着するかが読めるような確実性がとても重要になる。道路交通の定時性を担保することが、近隣産業のサプライチェーンの信頼性に関わってくる」
――企業立地にも影響が大きそうだ。
「これも、効果は沿線にとどまらず背後地にまで及ぶのではないか。物流ハブである名古屋港周辺とつなぐことで、まとまった土地がある愛知県北部の、企業にとっての魅力を増すことにも貢献する」
「交通の定時性の確保は、ほかにもさまざまな好影響を及ぼす。たとえば、取り扱い個数が近年右肩上がりに増加している宅配サービスだ。名古屋港付近に物流センターがある宅配企業に対して行ったヒアリングでは、名2環の他の区間の開通時にも、センターから営業所までの搬送時間が短縮されたと聞いた。早い時間に営業所から宅配に出ることができれば、受け取り手が家にいる可能性の高い朝のうちに、荷物を届けることができる。夜間の再配達が減るため、待機しなければならない人的コストを抑えることにつながる」
「道路のストック効果というと、交通時間の短縮という定量化しやすい要素に注目しがちだった。しかし、時間短縮は派生的にさまざまなメリットを生み出す。どのような社会経済上の効果があるのかにも、これから注目していきたい。再配達を減らせるというのは、一般の人にとっても、日々の生活の中で実感しやすいメリットなのではないか。こうした事例を発掘することが、事業の必要性を広く理解してもらう上でも重要になっていくものと思う」
――交通安全にはどのような影響がありそうか。
「現在、解消すべき課題となっているのが、沿線の生活道路を乗用車が抜け道のようにして通り抜けることだ。名古屋西〜飛島間が開通すれば、物流用途の大型車が高速道路にシフトし、生活道路へとあふれ出す乗用車を減らすことができる。沿線の生活道路を地域内の交通だけで完結させ、通過車両を抑制できれば、地域全体の交通安全にもつながっていく」
――防災面での効果も期待されている。
「名古屋西〜飛島間は、日本最大級の海抜ゼロメートル地帯を通過する。発生が危惧されている南海トラフ巨大地震で、津波による浸水が想定される区域だ。ここを南北につなぐ高速道路の軸は、災害時に緊急支援物資の輸送という役割を担う」
「大規模な浸水などにより道路交通が途絶えると、復旧までに時間がかかる。命を支える物資を運ぶため、浸水想定区域まで通じている高架道路を確保できる意義は大きい。しかも、名2環は名古屋港と直結する。船舶により海上ルートで運ばれてくる緊急支援物資を背後の被災地に送り届けることもできるようになる」
「名古屋港とその背後地域には日本のものづくりを支える産業が集積している。復興が遅れれば、地域一帯への経済的なダメージも拡大していく。そうした意味でも、大規模災害時に機能する道路の確保は急務だ」
――では、事業に伴う直接的な影響「フロー効果」はどのようなものか。
「1月末の時点で、名古屋西〜飛島間では国発注の103件の工事を54社が進めている。地域の企業の力を借りながら、橋脚一つ一つを施工している。結果的にだが、建設業の担い手確保の観点からも、地域企業の振興につながっているのではないか」
「ちなみに、1月末時点では、下部工334件のうち277件が工事中か、完成している。進捗率は約8割だ。上部工は139件中31件で2割程度。上部工が今後発注する工事のメーンとなる」
――中部地方整備局管内の“旬な現場”でもある。
「本年度はこれまでに600人を上回る人たちに見学してもらった。このうち200人くらいを学生が占めた」 「名古屋西〜飛島間は大都市近郊に位置し、アクセスも容易。土木を志す若者たちに、大規模な現場を見せるいいチャンスとして、これからも活用していきたい」
インフラ整備がもたらす、生産性や生活の質の向上などの効果。たとえば、道路建設は、移動時間の短縮や輸送費の低下といった形で生産性を向上させる。下水道の整備では衛生環境が改善し、防波堤を造れば災害に対する安全性が増すなど、生活の質が上がる。公共工事に伴う雇用の創出や消費の直接的な拡大といった、フロー効果と対比される。
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