2012年以降、国土交通省をはじめ関係者が総力を挙げ推進した社会保険加入促進への取り組みは大きく前進した。ただ、いまだに理解に至らない未加入企業や、適正な保険に加入していない者がいる以上、国交省は次なる施策を講じている。建設産業が抱える課題の中でも就業者の処遇改善は、将来にわたる担い手を確保する上で、最大の懸案であるといってもいい。この問題に対して、国や関係団体、企業はどのように対応し、どんな成果を上げたのか。国土交通省中部地方整備局の西口学建政部長に話を聞くとともに、中部地方整備局の管内4県への働き掛け、社会保険加入推進地域会議の発足、そして社会保険加入推進宣言企業の動向をまとめた。
このままでは建設業の将来の担い手はどうなってしまうのだろう。就業者の年齢別構成比を見ると誰もが不安になる。建設業の「担い手」であり、地域の「守り手」である建設業の若手入職者を増やすことは切迫した課題であることは間違いない。その最大のネックは現場を担う技能者の処遇改善である。このままでは「将来の公的保障が受けられない業種となる」との危機感から始まった社会保険加入促進への活動。国土交通省中部地方整備局の取り組みを西口学建政部長に聞いた。
――建設業が抱える処遇改善の解決に向け、社会保険への加入は時代の要請です。
西口学建政部長 本格的な人口減少社会という局面を迎えているわが国において、建設産業が今後もインフラの整備や維持管理、自然災害への対応など、「地域の守り手」として、持続的にその重要な役割を果たしていくためには、将来にわたる担い手を継続して確保することがなんとしても必要である。
そのためには、建設業における働き方改革を加速させ、「建設業働き方改革加速化プログラム」で示された「長時間労働の是正」「給与・社会保険」「生産性向上」の三つの柱からなる各施策を一つ一つ、着実に実現させていくことが重要である。その結果、建設産業の魅力が、世間に認識してもらえるようになるのだろうと考えている。
――その真意は浸透してきたと感じていますか。
残念ながら、一部では、いまだに社会保険未加入企業が存在し、社会から「将来の公的保障が受けられない業種」という印象を持たれてしまっている。一方では、農業や製造業などの国内の他産業でも同様に担い手不足の問題を抱え、各産業が労働力確保に必至に知恵を絞っている。そういった国内の事情もあり、建設産業への若年入職者がなかなか増加しないという厳しい現状を打開していかなければならない。
このような状況の中で2012年3月に、中央建設業審議会から「関係者を挙げて社会保険未加入問題への対策を進めることで、技能労働者の処遇の向上、建設産業の持続的な発展に必要な人材の確保、法定福利費を適正に負担する企業による公平で健全な競争環境の構築を実現させる必要がある」との提言を受けた。これはまさに、建設産業に対する時代の要請であり、真摯(しんし)に受け止め、行動しなければいけないと考えている。
――これまで国土交通省など関係機関は、どのような取り組みを展開してきましたか。
西口 12年度以降、関係者が総力を上げて社会保険未加入問題への対策に取り組んできた。直轄工事においては、14年度から段階的に対策を強化してきており、未加入企業を下請けに選定しないこととする「社会保険の加入に関する下請け指導ガイドライン」の制定や、直轄工事の予定価格への反映、法定福利費を内訳明示した見積書の活用の周知などを行ってきた。
――一昨年の愛知県に続き、岐阜県や静岡県、三重県での「社会保険加入推進地域会議」の立ち上げはどのような状況ですか。
西口 全国に先駆けて一昨年7月に立ち上げた「愛知県建設業社会保険加入推進地域会議」に続き、2018年11月に岐阜県と静岡県、三重県の3県で立ち上がり、中部地整管内の全ての県で「建設業社会保険加入推進地域会議」を開催することができた。
この地域会議に参加した企業により「建設企業が守るべき行動基準」が採択され、その後、この行動基準に賛同する「社会保険加入促進宣言企業」を中部地整が事務局となり募集している。
18年12月末現在で、岐阜県が227社、静岡県が168社、三重県が187社の応募をいただいている。一足先に立ち上がった愛知県の247社を加えると、合計で延べ829社が宣言企業として名乗りを上げたことになる。これらの応募企業を1月16日に公表(愛知県は既公表)し、「社会保険加入促進宣言企業」として、各県や中部地整のホームページで公表している。
さらに多くの建設企業がこの取り組みを理解し、賛同し、参画していただけるよう、引き続き、募集を続けていくとともに、中部地整としても、この「社会保険加入促進宣言企業」のPRのため、各種会議などを通じて積極的にアナウンスしていきたい。
――同地域会議を含め、社会保険の加入を促進する今後の方向性についてはどのように考えていますか。
西口 建設産業が社会の期待や要請に応え、より魅力的な産業として発展していくためには、現状をしっかりと受け止め、業界と行政が一体となって対応していくことが不可欠である。そのためには、関係団体と行政とが問題意識を共有し、互いに知恵を出し合っていくことが必要である。
生産性向上をはじめ、処遇や職場環境の改善など、働き方改革をしっかりと進めることにより、将来の「担い手の確保」に結びつき、建設産業の持続的な発展につながる。このことが「建設産業の再生」への道のりであると確信している。