私たちの主張A 西久保信輔さん(松尾建設)|建通新聞社

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「地図に残らない仕事」
西久保信輔(松尾建設・佐賀県)

 

 私は建設業界に足を踏み入れて17年、今年40歳。職種は、元請負者として各種の土木・建設工事を一式で発注者から直接請負い工事全体のとりまとめを行う建設業者、いわゆるゼネコンの現場監督です。大学で土木工学を専攻し、大手ゼネコンのテレビCMのような「地図に残るやりがいのある仕事」がしたいと淡い夢を描き、現在の会社に入社しました。

 入社当時の私は、学生気分がしばらく抜けず遅刻ばかりして先輩に怒られ、仕事の段取りもわからず、失敗ばかりしていました。工程の先の先を予測して打合せや段取りをしていく先輩達を見て「この人達はスーパーマンなのか?」と思い、私はこの仕事を続けていけるだろうか、と不安でいっぱいでした。しかしそんな私も、良い先輩方に恵まれ、現場をいくつか経験するうちに少しずつ仕事を覚え自信がついていきました。

 入社5年目の時です。私は初めて1人で現場代理人として現場を任されました。小さな水道工事です。小さいと言っても、町道を片側交互通行規制し古い水道管を撤去して新しい水道管を敷設する、当時の私には大変な工事でした。とにかく必死でした。現場の管理はもちろんですが、発注者の対応、周辺住民の対応等で毎日気の休まる日がありませんでした。工期も年度末の3月までの3ヵ月しかなく手戻りは許されませんでした。毎日深夜まで残業、寝ようとしても「今日復旧した舗装が陥没していないだろうか、明日の準備は万全だろうか」と心配で寝れない日が続きました。疲労と工期内に完成するだろうかという不安で精神的に不安定になっていました。それが現場で、作業員さん達への言葉や態度に日頃から表れていたのだと思います。

 工事も残り数日になった日のことです。以前から何度か安全管理について衝突していた下請け会社の社長がいました。その日も、以前と同じく片側規制の囲いを勝手に移動して作業していました。私はカッとなって社長に「なんでまた俺の言うことを聞かず囲いを移動しているんだ、やっと工事もここまできて事故でも起きたらどうしてくれるんだ、言うこと聞かないなら帰れ」と言ってしまいました。すぐに、まずいことをしてしまった、と後悔しましたが時すでに遅し、社長は作業員達に片付けを指示し「今日でうちの会社は引き上げる」と怒鳴って帰ってしまいました。1人事務所に戻り、私が注意したことは間違いではないという自負と、言い方がまずかったと後悔、年度末のこの時期に新たな下請け業者など見つかるわけがない、残り少しの仕事をどうしよう、という不安で涙が出てきました。仕事で涙が出たのは初めてでした。注意を聞いてくれなかった悔しさ、自分への悔しさで震えました。そのまま仕事も手に付かず事務所で傲然としていました。すると、深夜0時過ぎ、その社長が差し入れを持って訪ねてきてくれました。社長は「今日はすみませんでした。しかし、1人で大変なのはわかる、一生懸命なこともわかる、でも現場での言葉使いや態度には気をつけろよ、一生懸命な姿勢と誠実な態度で接すれば必ず伝わるし人は付いてきてくれる、人と人との繋がりで現場は完成する、がんばれ」と言ってくれました。また涙が出ました。「また明日な、あんまり無理するなよ」と言って社長は帰っていきました。社長は、日頃から私の言葉使いや作業員への接し方、気の配り方が気になっていたそうです。その日、片側規制の囲いを一時的に移動する際、誘導員と打合せて周辺住民の車の出入りがしやすいように作業していたと教えてくれました。

 その工事は、期限の1日前に無事完成しました。小さな工事でしたが、初めて1人でやり遂げたという自信、そして、あの時の社長の言葉は一生忘れないと思います。それまでの私は、下請け業者は自分の言うことを聞いて当たり前、自分が立場は上だから、と上から目線で接していたのだと気付きました。社長の「人と人との繋がりで現場は完成する」という言葉を今でも大切にしています。身勝手に周りも見えず、怒鳴ってしまった私に大切なことを教えてくれた社長には、本当に感謝しています。社長とは、12年経った今でも連絡を取り合い、親しくしています。

 建設業は、学生時代に夢見た「地図に残る仕事」ばかりではありません。私は経験した水道工事も、水道管は土の中で、車で通っても何も見えません。しかし、私の心には、はっきり残っています。これも建設業の魅力です。自分1人の力では何もできません。人と人との繋がりによって、汗と涙によって形を築いていくこの仕事を私は誇りに思います。たとえそれが、「地図に残らない仕事」だとしても・・・。

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