「祖父を越える日まで」
葛城圭巳汰(静岡県立沼津工業高等学校建築科3年)
小さな手には収まらない鉋を木端にあてて、不器用にひいた。暖かなヒノキの香りの中でおにぎりを頬張った。幼少期のようやく物心がついた頃の祖父と過ごした日々と、その頃の祖父の「職人」としての姿を、今でも時折思い出す。
私が将来目指すのは宮大工である。現代は、職人の高齢化や減少が建設業界の問題の一つとなっている。そんな中で、私が宮大工になろうと思ったのには、いくつかきっかけがある。
一つは、小学生時代から古い建築物が好きであることだ。小学生の頃に旅行で見た数々の城郭。中学生の修学旅行で訪れた古都の社寺・仏閣。そこで見た建築物の一つ一つと、普通では感じられないような伝統技術の素晴らしさ。それらには、職人1人ひとりの知恵と技と、そして魂が刻まれている。建築当時から数百年も経つ現在も、ほとんど当時と変わらぬ姿で残っているものもある。現代のように、コンピュータや機械も無かった時代に、人の知恵と技術のみでつくり上げる見事さ。中学生の私にとって、それはとても不思議なことであり、と同時に私もこんな技術を学びたいと憧れた。
二つ目は、宮大工という存在が後世に長く続く建築物をつくっていくだけではなく、職人としての魂を伝承していかなければいけないものだ、と思ったことだ。「宮大工は過去の職人と、そして木と会話する」ある棟梁の言葉である。昔の社寺建築物には、驚くほどの匠の技と職人の心意気がつまっている。木にも人と同じように癖がある。ねじれや歪み、反り、育った環境で1本1本違う。この癖を持った木を、どう活かすかが宮大工であり、これができるかどうかで建築物の強さと美しさが決まる。これを聞いて私の心は強く突き動かされた。
私の目指す宮大工という職人への道のりは、決して楽ではないかもしれない。むしろ、苦難の方が多いかもしれない。たとえ、下積みや修業が他の職種より長く、険しいものだとしても、後世へと繋がる数百年という時の長さに比べれば、私の人生の数十年など、とても短い。だから職人としての人生は、一生修業なのだ。心・技・体を一つにして働く宮大工になるには、近道はないと思う。棟梁や親方に叱られることも幾度となくあると思う。それでも、自分の信念を曲げずに、目標を定めて自分の選んだ道を歩んでいきたい。
後世の人たちに私の学んだ知恵と技術を伝え、日本の伝統を継承していけるような名工になることが私の夢である。夢は想いの強さで絶対に叶うと信じている。雨だれが石をも貫くようにコツコツと黙々と修業に励んでいきたいと思う。
そして、同じ志を持っていたであろう、あの頃の祖父の背中を超えられる職人になりたい。
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