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「攻めのDX」・「守りのDX」の格差。【第3回】建設業界で「守りのDX」が進まない理由

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 建設業界において、法改正への対応などを目的とした人事労務分野における「守りのDX」の進みが、他業界と比べて遅れている理由はどのような点にあるのだろうか。業界の特性に関連して、大きく三つに分けられる。

1つ目は、「バックオフィス(人事労務分野)への投資に消極的であること」。
 他業界に比べ、現場色が強い建設業界では、第1回の記事(※1)にあった通り「施工管理」や「設計業務」など、現場のIT化/デジタル化に対する意識は少しずつ広まりを見せている。
 しかし、人事労務分野などバックオフィスのIT化/デジタル化が進まない理由は、「直接的にお金を生み出す業務ではない」という考えの企業がいまだ多く存在しているからであろう。
 ただでさえ建設業界は「長時間労働の常態化と深刻な人材不足」が理由で時間外労働の上限規制に猶予が設けられているように、現場の業務改善が常に最優先される状況が続いている。ましてや昨今言われる「2024年問題」に関しても、バックオフィスの課題よりも、現場で発生する慢性的な「人手不足」などの課題に焦点を当てられる傾向が強い。
 投資をすることで「業務効率化が実現される」のは「攻め」と「守り」どちらのDXにも言えることであるが、「守りのDX」は喫緊の課題として優先順位が上がるような理由がなければ着手しづらい現状があると言える。
(※1)建通新聞:『「攻めのDX」・「守りのDX」の格差。 【第1回】建設業界におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の進化:現状と課題』 https://www.kentsu.co.jp/mlmg/1186/news/000000000017.html

2つ目は、「アナログな慣行が根強く残っていること」。
 建設業界ではアナログな慣行が多く散見され、それ故に新しい技術への抵抗が強い傾向にある。特にバックオフィスの管理は紙やエクセルでの管理が顕著だ。
 例えば勤怠管理だと、現場へ直行直帰することが通例だが、ITを活用してその場で勤怠打刻をする習慣がなく、自身の労働時間をタイムカードに手書きで記載したり、おおよその労働時間を見積もって出勤簿に記載したりする場合がある。
 また、給与計算においては、単に労働時間や残業時間を計算して給与計算を行うのではなく、プロジェクトに応じた稼働工数や、従業員一人ひとりの手当やスキル、日給制の賃金計算など、細かな項目を算出した上で給与計算をする必要がある。
 そういった背景から「アナログで管理する方が使い勝手が良い」と考える企業が多く存在し、ITツール等の最新技術の導入に対して懐疑的な反応を示すことが多い。
 さらに、業界全体を見ても「守りのDX」を推し進めている事例はまだ限られており、「他社が取り組んでいないことは、自社も採用しない」という「横並び主義」も、新しい技術やシステムの導入検討に遅れを生じさせる要因となっていると考えている。

3つ目は、「建設業界にフィットするITツールがなかったこと」。
 ITに不慣れな従業員が、IT環境が整っていない現場で、簡単に利用できるITツールがこれまではあまり存在しなかったことも要因として存在する。
 また、管理者目線で言えば、業界特有の勤怠管理、給与計算、人事情報の管理に適していないシステムが多いことから、顧客の話を聞いていても「さらに業務が増えてしまうのでは?」という懸念の声も多く聞く。

 しかし昨今では、スマホやタブレットで簡単に打刻ができる勤怠アプリを始めとした、クラウド型の人事労務システムが普及してきており、上記のような課題にも対応し、建設業界にフィットするシステムも出始めてきている。

 このように、いくつかの課題が業界内にある中でも、どのように「守りのDX」を推し進めていけばいいのだろうか。次回の第4回では、その具体的なポイントについて深掘りしていく。

執筆者プロフィール

jinjer且キ行役員CPO(最高プロダクト責任者) 松葉治朗(まつば・じろう)

松葉治朗(まつば・じろう)
jinjer且キ行役員CPO(最高プロダクト責任者)
人材系ベンチャー企業を経て、ネオキャリアに転職しクラウド型人事労務サービス「ジンジャー(https://hcm-jinjer.com/)」の立ち上げに携わる。その後、同サービスのCPO(最高製品責任者)に就任し、HRテクノロジーをけん引するプロダクトへと成長に導く。また、人事データ活用に関するセミナーへ登壇するなどHRテクノロジーの啓発活動にも積極的に取り組んでいる。