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「攻めのDX」・「守りのDX」の格差。【第4回】2024年問題に向けて守りのDXで対応すべきこと

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 アナログな慣行が残っていること、利用する従業員がITに不慣れであることなど、業界内に数多くの課題がある中で、どのように「守りのDX」を推し進めていけばいいのだろうか。その具体的なポイントが三つある。

一つ目は「現状の管理体制を棚卸し、課題を正しく把握すること」。
第2回(※1)でも述べたように、アナログな管理体制が起因して、”意図しない法違反”をするリスクを自ら高めてはいけない。
 
 この状況を変えるためには、ケアレスミスが発生しやすい業務を洗い出すことが必要だ。アナログな管理体制の1番の欠点は「人的ミスが発生しやすいこと」にある。特に業務に負荷がかかりやすく、ミスが起こりやすい労働時間の集計や給与計算などは業務の棚卸しが必要だと考えている。これらの業務は直接的に労働基準法の罰金対象になり得るためだ。
 
 バックオフィス周りの管理体制を見つめ直す重要度と緊急度が近年増している中で、現状の業務を棚卸し、課題を正しく把握して起きうるリスクを事前に認識しておくことが重要なポイントとなる。
(※1)建通新聞:「攻めのDX」・「守りのDX」の格差。【第2回】建設業界が「守りのDX」を推し進めないことによるリスク
https://www.kentsu.co.jp/mlmg/1191/news/000000000002.html


二つ目は、「自社に適したサービスを見極めること」。
 一つ目で洗い出した現状の課題を解決し、「守りのDX」を推進していくためには自社に適したサービスを選定することも重要だ。
 第3回(※2)でも述べたように、多くの企業では、選定するサービスによってはシステムを活用して業界特有の課題を解決できないケースがあり、目の前の課題に対処できるサービスを付け焼き刃的に選んでしまうケースもある。

 サービスの選定軸として、これまで個社別に実現したいことを細かく設計・構築できるオンプレミス型のサービスが選定されていた一方で、昨今はクラウド型のサービスが主流となってきている。その一番の理由は「変化の多い時代だからこそ、短期だけではなく中長期的に使い続けられるサービスが良い」という意見が多くなってきているからだ。
 
 そのため、現状ある課題はもちろん、中長期的に発生し得る課題や成し遂げたい理想の管理体制を加味したサービスを検討することが重要になる。
(※2)「攻めのDX」・「守りのDX」の格差。【第3回】建設業界で「守りのDX」が進まない理由
https://www.kentsu.co.jp/mlmg/1195/news/000000000001.html

三つ目は「守りだけでなく攻めのDXにつなげること」。
 ここまで「守りのDX」で対応すべきことを述べてきたが、守りのみの打ち手で留まってしまうことは、企業の成長を鈍化させてしまう恐れもある。

 特に人事労務領域における「守りのDX」は、従業員情報を扱う人事担当者やシステム管理をする情報システム担当者が主体となって業務が回る。さらには人事情報を扱う部門であることから採用業務や人事評価など、その他の業務領域への活用促進を視野に入れられる領域だ。

 そのような観点で、バックオフィス領域は社内の「守りのDX」だけでなく「攻めのDX」も合わせて担っていると言える。
 昨今はそういった従業員情報を「人的資本」として、社内の人事制度や業務変革を検討する企業も増えてきており、「守りのDX」を行うだけではなく、システムを導入することによる将来的な「攻めのDX」への活用方法を見据えて施策を行う企業も多い。このように「守りに留まらない攻めにつなげるDX」へと推し進めることが重要だ。

 このように、建設業界のシステム化は、さまざまな段階を経てシステムを活用する過程へ至る。第5回では現場のITリテラシーが低い企業でもシステムを導入できた具体的な事例について触れていく。

執筆者プロフィール

jinjer且キ行役員CPO(最高プロダクト責任者) 松葉治朗(まつば・じろう)

松葉治朗(まつば・じろう)
jinjer且キ行役員CPO(最高プロダクト責任者)
人材系ベンチャー企業を経て、ネオキャリアに転職しクラウド型人事労務サービス「ジンジャー(https://hcm-jinjer.com/)」の立ち上げに携わる。その後、同サービスのCPO(最高製品責任者)に就任し、HRテクノロジーをけん引するプロダクトへと成長に導く。また、人事データ活用に関するセミナーへ登壇するなどHRテクノロジーの啓発活動にも積極的に取り組んでいる。