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脱炭素のホンネA投資のインセンティブをつくる

環境という観点からは大きな意義がある建物の省エネルギー化も、個々の発注者にとってメリットがなければ、なかなか前に進まない。建物の環境性能の向上を、経済的な価値につなげる道筋が求められている。既築建物の環境改修という新たな市場の形成を見据え、モデル事業の構築に取り組む日本政策投資銀行(DBJ)と日建設計を取材した。
 DBJと日建設計は昨年11月、業界の脱炭素実現に向けて、既築改修による環境性能の向上をターゲットとした協業を表明した。日建設計が主に手掛けるのは大規模な新築ビルだが、この協業では、あえて既築改修に焦点を当てた。都内のビルを棟数ベースで見れば、90%程度は中小ビルだ。膨大な既築ストックをそのままにしておいて、脱炭素化という社会課題を解決する糸口は見えない。日建設計側の担当者である横瀬元彦氏は「社会課題を解決するためには(従来よりも)幅広い仕事をしなければいけない」と力を込める。
 環境性能を高める改修で必要になる技術や材料は既存のものの組み合わせが主であり、技術的なハードルが高いわけではない。「むしろ、マーケットにお金がなかなか回ってこないのが課題だ」と横瀬氏は見る。不動産の開発や、金融分野の知見を生かした協力を得るため、DBJに声を掛けたのが協業の発端だ。
 DBJ側の担当者で、都市開発への投資資金の供給などに携わってきた佐藤慎太郎氏は「今ある建物にきちんとお金を投じて、それが評価される仕組みが大事だ」と指摘する。これまでも建築は、経済と環境の両面で価値評価がされてきた。しかし、近年は「環境価値の比重がどんどん高まっている」というのが佐藤氏の実感だ。
 DBJと日建設計の両者は現在、環境改修のモデル構築に取り組んでいる。対象として、まずはオフィスビルを想定している。改修の内容に応じて環境性能がどれほど向上し、テナントがそこにどれほど上乗せした賃料を払ってくれるのか―を、実例を基に示そうとしている。
 オフィスを主な対象に据えたのは、環境面の価値が評価される素地があるからだ。近年、金融市場で企業の環境分野の取り組みを評価したり、情報開示を求めたりする動きが拡大している。「環境性能を気にするテナントが増えているのは間違いない」と横瀬氏は言う。
 佐藤氏は、経済合理性の重要さを強調する。現状のままでも収支の取れているビルオーナーに、改修投資に前向きになってもらうには、客観的な指標が欠かせない。DBJでは、建物の使われ方も含めて簡易に評価できる「グリーンビルディング認証」を活用しており、こうした考え方を生かしていく。
 高度な技術により建物のエネ消費量を大きく低減できても、コストが高ければ広く普及はしない。「マーケット全体でどう二酸化炭素排出量を減らしていくか」こそ、横瀬氏が重視する視点だ。施工技術だけでなくファイナンスの視点を持ち、施主に最適な改修内容を提案できるような職域が今後求められるようになるかもしれない―と横瀬氏は見る。
 既築建物の環境改修というマーケットの開拓へ、今は言わば“のろし”を上げた段階だ。市場が自律的に拡大していくため、建設業界を挙げて知恵を絞ることが求められている。

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