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「二重の老い」に向き合う制度を

2014/8/4 

国土交通省の推計によると、わが国の分譲マンションストックは2013年末の時点で約601万戸に達した。このうち1981年5月以前に適用されていた旧耐震基準に基づいて建てられたものは、約106万戸に上るという。建築物の耐震性、居住者の安全性を考えるとマンションの老朽化対策は喫緊の課題だ。しかし、マンションが建て替えられた実績は、わずか183件・約1万4000戸にとどまる。課題の解決に向けた取り組みは遅れていると言わざるを得ない。
 国交省が13年に実施した調査によると、管理組合のおよそ半数が建て替えを検討している。その一方で旧耐震基準に基づき建設されたマンションのうち、耐震診断を行っていない管理組合は6割近くを占める。この調査からは、管理組合がマンションを建て替えようにも、なかなか最初の一歩を踏み出せない現状が浮かび上がる。
 旧耐震の物件には、設計図書を紛失してしまった管理組合もあるようだが、建て替え費用の負担や資金の調達、一時転居先の確保など検討する事項が山積し、区分所有者の合意形成が容易ではないことが、はじめの一歩をためらう大きな要因と推察できる。
 マンション居住者の高齢化が進行していることも、建て替えなど老朽化対策が進まない理由の一つだろう。前述した国交省の調査で居住する世帯主の年齢を見ると、60歳代以上の割合が過半を超えている。建築物の老朽化と居住者の高齢化という「二重の老い」が管理組合の前に大きく立ちはだかる。
 こうした状況の中、建て替え問題の改善へ向けた取り組みがようやく動き始めた。先の国会で「マンション建替え円滑化法」の一部改正案が可決・成立した。8月中旬の閣議決定を経て、政令・省令が公布され、12月をめどに施行される見通しだ。法改正によって、これまで民法に基づく区分所有者全員の同意が必要だったマンションや跡地の売却が、多数決(区分所有者数などの5分の4以上)で可能になる「マンション敷地売却制度」が創設された。また、一定の条件を満たす物件については容積率を緩和する特例措置もできた。不動産・建設業界からは従前の法制度から大きく前進したとの評価も聞かれる。
 そもそも、老朽マンションは駅前や角地に建つなど立地のよいものが多い。建て替えに際して、一定の敷地面積を有し、容積率の割り増しを受けることができそうな物件については、デベロッパーやゼネコンも積極的に事業化に動くだろう。
 ただ、今回の法改正で制度の適用対象になる物件は、特定行政庁が耐震不足と認定したものに限られる。中高層のマンションには、例えば耐震基準を満たしていてもエレベーターがないといった物件は少なくない。耐震性に対する不安と並んで、設備仕様のバリアフリー化も建て替えを検討する大きな動機の一つになると聞く。建築物と同じ年数だけ居住者も齢を重ねる。「二重の老い」に向き合う法制度を、国には検討してほしい。

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