建設作業従事者の石綿健康被害 分れた司法判断 東京地裁、建設アスベスト集団訴訟
2012/12/11
首都圏在住の元建設作業従事者とその遺族らが、国と建材メーカー42社に総額約120億円の賠償を求めた「建設アスベスト集団訴訟」で、東京地裁(始関正光裁判長)は5日、国の責任を一部認め、原告377人のうち170人に計約10億6400万円の賠償を命じる判決を言い渡した。司法が初めて建設作業従事者の石綿健康被害について、国の責任を認めたという点において、特筆すべき判決の一つとなったといえるだろう。
とはいえ、始関裁判長は判決の中で「建築現場における労働者の危害防止の責任は一次的には事業者が負うもので、国の責任は二次的なものにとどまる」とも述べている。
それでも、判決が国の責任の一部を認めたのは「石綿粉じん曝露防止策が現実に取られなかったのは明らかで、複雑な下請け関係の下で中小零細企業が工事を行うことが多いわが国特有の事情をかんがみれば、国が規制権限を行使しなければ、原告らの粉じん曝露は避けられない状況だった」との認識があったからだ。
東京以外にも、札幌や大阪など6地裁で建設作業従事者の石綿健康被害の責任の所在をめぐって争われており、横浜アスベスト訴訟の第一審(5月25日)で訴えが全面棄却された原告は、すでに東京高等裁判所に控訴している。
横浜地裁と東京地裁、二つの裁判の司法判断は分れたが、いずれも争点はほぼ同じ、「(アスベストの)危険性に対する予見可能性」「医学的知見(がん原性に対する医学的知見の確立時期)」「共同不法行為」の有無―の三つだ。
規制権限の不行使に対する国家賠償法の適用については、最高裁が筑豊じん肺訴訟判決などで「国または公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨・目的や、その権限の性質などに照らし、当時の具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限られる」との判断を示しており、これが判例となっている。国に責任を認めさせ、賠償を請求するハードルはあまりにも高い。
どうやら、これらの訴訟の長期化は避けられそうにない。そうこうしているうちにも、建設作業従事者の健康はむしばまれていく。今回の判決で始関裁判長が述べた通り、被害の深刻さを直視した立法府の真剣な検討が望まれる。
※共同不法行為―民法719条では「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときにも、同様とする」などと規定されている。