建設投資額は1992年のピークを境に減っており、スクラップ・アンド・ビルドの時代から転換を迫られている。今後は土木構造物も現状のインフラをどれだけ維持できるかが重要となる。東日本高速道路会社(NEXCO東日本)では11年10月に中期経営計画を発表。老朽化が進む高速道路資産の長寿命化対策を進めることを打ち出している。NEXCO東日本保全課長の小山内貴司氏に同社の対策や考え方を聞いた。
―NEXCO東日本の長寿命化に対する考え方は
「関東以北、長野、新潟から北海道に至る東日本エリアの高速道路の管理運営事業、建設事業、SA・PA事業と高速道路関連ビジネスを行っている。高速道路の管理延長は約3650`で、一日約270万台が通過している。高齢化が進む高速道路のなかでも特に橋梁は開通後30年を経過するころから損傷発生の割合が急激に高まってくる。管内の橋梁延長は約470`あり、平均経過年数は約21年。
10年後は約半数の橋梁が経過年数30年以上となることから計画的な老朽化対策と長寿命化に取り組んでいるところだ」
―中期経営計画の中で老朽化対策を行う具体的な場所と予算付けはどうなるか
「3カ年の老朽化対策にかける総費用は約1550億円を見込んでいる。橋梁については、東京外環埼玉区間の鋼床版の補修や、点検結果による劣化・損傷の状況から優先度を決めて計画的に補修していく。舗装と施設整備では、点検結果を踏まえて管理基準に基づいた補修・更新を行う」
―長寿命化対策の実例はどのようなものがあるか
「橋梁桁端部の保護対策は、伸縮装置からの漏水でコンクリート中へ塩化物イオンが侵入し、塩害損傷を受けやすい。橋桁端部に被覆材を塗布し、コンクリート中へ劣化因子の浸入を阻止する対策をしている。また、床版を土工部まで延長させ、伸縮装置の位置を変えることで主桁端部の耐久性を向上させ、騒音対策や漏水対策、走行性の向上を図っている」
「建設段階では橋梁の床版に高性能防水材を施工し、床版の長寿命化を図ることや耐久性の高い常温金属溶射やC塗装系の重防食塗装を採用して管理段階の塗り替え塗装を軽減させる。そのほか、高機能舗装の基層部分の構造を密実なものにして路盤への雨水浸透を防止している。寒冷地では表層の高機能舗装の配合を変えて除雪作業での骨材飛散を抑え、凍結融解を防ぐことも行っている」
三つの課題を克服し安全・快適な道路空間提供へ
―課題や対応策は
「点検・調査の確実な実施とデータ蓄積、適切な評価と診断、劣化予測の精度向上、この3点が課題だ」
「1点目は『道路保全情報システム(RIMS、リムス)』を構築して、道路保全データを整理・統合・蓄積・共有化し、効率的に保全業務で活用できるようにしている」
「2点目は専用技術者の育成や技術の伝承が重要であり、橋梁や舗装のスペシャリストである専門役や指導役というポストを新設し、グループ会社も含めた現場での問題解決支援や若手技術者の育成を行っている」
「3点目は橋梁マネジメントシステム(BMS)や舗装マネジメントシステム(PMS)などアセットマネジメントシステムの劣化予測を活用し、常に最新の点検データを反映して、劣化予測曲線を時点修正しながら予測精度を高めていく。ライフサイクルコストの最小化を目指した適時適切な補修につなげていく考えだ」
―技術開発の取り組みや考え方、今後の方向性は
「非破壊で車線規制が不要な健全度調査(スクリーニング)技術の開発や施設設備における赤外線サーモ技術などによる点検技術の高度化を図っていく」
「管理延長の6割が重雪寒地域であることから、効率的かつ的確な雪氷作業を行うことが重要だと考えている。そのために、高速道路上の気象観測データと過去の統計データから路面凍結時期を予測するシステムや、路面温度、気温、塩分濃度をリアルタイムで自動計測できる車両を導入し、そこから得た情報を基に凍結防止剤の適切な散布時期と散布量の判断を支援している。そのほか雪氷作業車両の位置をデジタル無線とGPSでリアルタイムに把握し、雪氷作業を迅速かつ効率的に作業判断を行う支援もしている」
「IT技術を活用した管理の効率化や、東京大学大学院との研究協力など外部技術力の活用などを進め、これからも道路資産の健全化・長寿命化を図るとともに安全で快適な高速道路空間を提供していきたい」
製品・工法紹介
■太平洋マテリアル FacetConcrete製造システム 「簡単に速硬コンクリートを製造」
「FacetConcrete」製造システムは、生コン工場から出荷される標準コンクリートに速硬性混和材「Facet」を現場で添加することで、より簡単に「速硬コンクリート」を製造するシステム。
特別な設備を使用せず、材齢6〜8時間で24N/mu以上の圧縮強度を確保でき、同時に練り混ぜ開始から1時間程度の作業時間も確保することが可能。
速硬コンクリートが手軽に製造できるようになったことで、従来の超速硬コンクリートより大幅にコストを削減できる。
また、使用可能時間が長いため、締め固めや仕上げに要する時間も十分に確保でき、施工性能も向上した。
昨年5月の公開実験では国内外100人程度が参加。その後、道路改良工事や高速道路床版工事、民間物件などの実績も増えている。
岡山県生コンクリート工業組が需要創出を目的にJISコンクリートをベースとした速硬コンクリートを生コン工場から出荷できる技術に取り組むなど、用途拡大の動きも現れている。
今後は劣化した橋梁の補修・補強工事や、工期短縮が求められる緊急工事などで活用の場が広がるだろう。
■住友大阪セメント 補修・補強・復旧用材料専用サイト 「コンクリート構造物で立ち上げ」
住友大阪セメント建材事業部は、「コンクリート構造物の補修・補強・復旧用材料のための専用サイト」を立ち上げた。コンクリート構造物の補修・補強から、震災復旧に活用できる同社の持つ材料・工法を工種別に取りまとめて一覧にするとともに、施工の動画、カタログダウンロードなど利用者のニーズに合わせたウェブサイトとなっている。
具体的には、地震・液状化により生じた道路下、橋台背面の空洞を軽量かつ効率的に充填できる「フィルコンライト」、破損したジョイント部分や床版部分を緊急補修する「ジェットコンクリート」をはじめとする超速硬系の各種材料、将来に備えて補強する耐震補強材料など目的に応じたメニューで検索できるウェブサイトになっている。
詳細は専用サイト http://29049.jp(ふっきゅうれすきゅー)まで
■メトロ開発 IPHシステム 「コンクリ構造物の新たな補修・補強技術」
メトロ開発は、アイクリーテクノワールドと共同で、コンクリート構造物の新たな補修・補強技術としてIPHシステム(内圧充填接合補強工法)を開発した。
コンクリート構造物のひび割れの補修や補強に樹脂注入工法が多用されているが、一般的な工法では、コンクリート表面のひび割れ位置から樹脂を0.4N/mu以下の圧力で注入するため、コンクリート表面のみの注入に留まってしまう傾向がある。
IPHシステムの場合、あらかじめコンクリート内部まで穿孔し、エアー抜き機能を有する特殊な注入器具(IPHミクロカプセル)で流動性の高い樹脂を更に0.06N/mu以下の低圧で注入することで、高密度の充填がコンクリート内部まで可能であり、コンクリート部材強度の回復や耐力の向上、鉄筋の防錆効果が図られる。
また、施工時においても大型重機が必要なく、足場が簡易にできコンクリートガラなど廃材を出さないなど、ライフサイクルコストの低減と環境保全にも貢献する。
なお、このIPHシステムは、新技術として土木学会の技術評価制度において、2011年6月に技術評価証を取得している。
■ネクスコ・エンジ東北など4社 ジェックス工法 「橋梁桁端狭隘部の塩害を電気防食」 ネクスコ・エンジニアリング東北、エステック、ケミカル工事、住友大阪セメントの4社が共同で開発したジェックス工法は、桁端狭隘部の塩害対策で電気防食を可能にした。
コンクリート橋脚の桁端部では、経年劣化やジョイントから流れ込んだ凍結防止剤を含む漏水により塩害劣化が著しく発生している。これまでの橋梁桁端部の塩害劣化補修は、狭隘部の施工となることから施工が非常に困難だった。補修を実施したとしても数年後には塩害による最劣化の恐れがあり、損傷がさらにひどくなることもあった。
そこで、塩害補修に信頼性が高い電気防食工法を施工するに当たり、特殊施工機械を開発。桁と下部工(橋台)との隙間が12a以上あれば電気防食工法によるコンクリートの防食ができるようにした。
特長としては、チタンリボンメッシュRMVを使用するため耐久性に優れることや、陽極材の耐久性が40年以上で再劣化の心配が無いこと、陽極材設置後のコンクリート保護塗装がいらないことなど。
■ロブテックスファスニングシステム ハック高力ワンサイドボルト 「閉鎖断面部の補強を片側から施工可能」
ロブテックスファスニングシステムの「ハック高力ワンサイドボルト」は、閉鎖断面部の補強や部材接合を片側から施工できる。現場溶接が不要となり、安全性の確保と工期短縮が可能。摩擦接合用高力ボルトとして使用する場合、F8T相当の強度を確保。橋梁補修や建築建て方などあらゆる構造物に展開が可能。鋼橋の保全や健全化、耐震補強にも応用でき、長寿命化に貢献する。
橋梁の補強では、黒之瀬戸大橋耐震補強や米谷橋耐震補強などで施工実績がある。トラス橋腐食補強やトラス橋耐震補強、床版補強などで利用されている。
そのほか、鉄筋コンクリート柱への鋼板巻立補強で耐震改修に使われており、大型商業施設や駅舎、学校、病院、ホテルなどの耐震補強で景観を損なうことなく無溶接化を実現。スピーディーで確実な施工が可能だ。