社団法人大阪府建築士会が創立60周年を迎えた。公益社団法人化に向けた取り組みや今後の大阪府建築士会について、柳川陽文名誉会長と岡本森廣会長(いずれも5月30日の通常総会で就任決定)に語ってもらった。
−創立60周年や公益法人化など多くの節目を迎えるが、どのような思いか。
柳川 「公益法人化の役割や責任は重い。明確な目標を定め、本気で取り組まないと名実ともに社会から認められる団体にはなれない。多くの会員はボランティア精神が高く、社会貢献活動にも熱心である。必ず達成できると信じている」
岡本 「PRするというのは、今まで以上に私たちの活動を「見える化」することだと思う。府民に対して安心、安全だと思ってもらえるような建築士、団体となり、どれだけ社会に貢献できるかを考えたい」
柳川 「節目と言えば、昨年大阪で開催予定だった建築士会全国大会。東日本大震災と原発事故を受け、中止を決断したことは、正しいと判断しているが、大阪で開催したかったのは事実。開催に向けて全役員、委員を束ねて、リーダーシップを発揮したのが岡本会長だった」
岡本 「全国大会には5,000人規模の参加を見込み、3年がかりで事業計画をまとめた。それを中止するというのは苦渋の決断。会員が全力を注いで取り組んでいただけにつらい選択ではあった。しかし、全国大会中止を経て、その思いがこの3月に在阪建築4団体で行った防災フォーラムにつながったのは、大きな成果だった」
柳川 「防災フォーラムで募集した「災害に備える」アイデアコンペには、全国から525点の応募があった。もっと少ない可能性も考えられたが、信じてやって本当に良かった。応募した1人1人があの震災に対して真剣に向き合ったのだと思うし、私たちが企画したものに皆さんが応えてくれたことがうれしい」
岡本 「小学生が応募した「海辺のエアバック」をはじめ、特に子供たちが危機感を持って斬新なアイデアを出してくれた。応募してもらったアイデアを具体的な、意味のある活動に発展させたい」
−防災フォーラムのような社会貢献活動が今後重要になってくるのでは。
岡本 「銀行や損保、行政機関、ゼネコン、学校、弁護士などいろいろな分野に建築士の資格者がいる大阪士会3,500人の会員のネットワークは社会貢献活動にとって大きな力だ。設計や監理の仕事以外にも建築紛争処理への助言、社会資本や建物の評価、建築相談、行政や多くの団体への委員派遣など、専門家としての能力を生かし、幅広く活躍している
柳川 「建築士会は「設計士」だけの団体ではないということ。全職種にまたがっているということを理解してほしい。社会に幅広く資格者がいるということがポイントであり、社会貢献を行うのにも有効だろう」
岡本 「リニューアル、高齢化や子育てに配慮したバリアフリー、そして耐震という分野で、建築士会や会員らの取り組みをデータベースとしてまとめ、広く公開することにも価値があるはずだ。また、CPDについては2013年度から大阪府や大阪市のプロポーザルで、加算点数の一つに取り入れることになるというので、継続教育の講習の機会を一番持っている私たちのCPD講習の取り組みは立派な社会貢献になる」
−これからの建築士会に対する夢や期待は。
岡本 「時代がどんどん変わっていくので、5年、10年、20年先の社会がどうなるのか、そのために私たちは何ができるのかを考えるビジョンを今から準備したい。社会に応える財産や資質はたくさんあるので、建築士の技術や能力をレベルアップさせ、それをどんどん活用したい」
柳川 「すべての建築士が夢を持って建築を創らないと、人々は、夢のない街や建築で一生を送ることになる。したがって、例えば、建築士会から、原発を稼働しなくても豊かな生活が送れるエネルギー活用提案や、電気代を低減する技術的な提案や取り組みをアピールすることが、業務独占を与えられた、建築士の責務であり、具体的な社会貢献の一つであると考えている」
−本年度の総会で柳川前会長から岡本新会長にバトンタッチした。
柳川 「2期会長職を務めてきたが、60周年や全国大会開催、公益社団法人化という節目を機にバトンタッチすべきと考えた。組織が沈滞しないためには、目指す方向や心情は同じでも、これまでとは全く違う方法論で考え、行動する人を選びたかった」
岡本 「青年委員長の時も柳川会長の後を引き継いでいる。連合会の青年委員会の創設にも一緒に携わった。問題意識は共通しており、手法は違っても方針は同じだと思っている」
柳川 「青年は志を高く持つことが重要だと伝えたい。団体でも個人でも、現代の日本人に欠けて来ている。人間、志以上にはなれないが、高い志を持てば、必ずそこには到達できる」